第21話 合同練習!!
3チームずつに分かれて各球場で合同練習しているところを30分おきくらいにグルグルと回って色んな選手を見ていた。
ちょうど二週目に入ったところで、遂に俺のお眼鏡にかなう選手を見つけることが出来た。
あれだけ野手を探していたのに、俺がいいと思った選手はまさかの投手だった。
彼女の名前と所属チームは…。
原ドリームガールズ
七瀬皐月(ななせさつき)
投手能力
最高球速 118キロ
コントロール 55〜60
平均球速 114キロ
変化球 カーブとフォーク系の2種類?
投球フォーム
かなりシンプルなオーバースローで、ここまで無個性な投球フォームも珍しいくらいの普通のフォーム。
スタミナ 不明
フィールディング 不明
クイック 不明
牽制の上手 不明
今更だが、俺はスピードガンを持参している。
結構高性能なやつらしく、勿論入手経路は姉がスポンサーにお願いして去年くらいに家に持って帰ってきたものだ。
中学女子の平均球速は97キロ、投手に絞ると102から103キロの間くらいらしい。
七瀬さんは中学3年になったばかりで118キロ投げれるなら多分高校生になるまでしっかりとトレーニングを積めば120キロは余裕で越してくるだろう。
女子プロ選手で歴代最も球が速い選手は、フェアリーズの不動の抑えの白石詠選手の137キロだ。
アマチュアを合わせるなら甲子園で姉が出した144キロが最速だ。
ストレートのスピードはやっぱり大きな武器である。
120キロと言われると速くはないように感じるが、練習では基本的に相手の投げる平均のスピードの球しか打たない。
女子中学野球なら大体105キロから早くても110くらいのバッティングマシンしか打たないだろう。
120キロ、130キロなど打てばいいと思われるが、たまに練習で打つ分には問題ないのだが、速い球を打ちすぎるとスピードが遅い投手にタイミングが合わないということもよくある話だ。
最近でも高校で160キロ投げる投手を打つために、マシンを前に設置して体感165キロのストレートを打つ練習をしていたが、そこの高校と当たる前の試合で120キロ前後のストレートと100キロ切るくらいの変化球を使う軟投派投手に全くタイミングが合わず打てずに敗退ということがあった。
相手が投げる平均の直球をしっかりと打つ練習をしておくのがどの相手と戦うことになっても、結局のところはそれが一番応用が効くし賢いと思う。
だからこそ、平均を大きく超えている七瀬さんのストレートはかなり魅力的であった。
だが、投球練習を開始して30球くらいであっさりと投球練習を中断してしまった。
「こら!七瀬!ピッチング練習ちゃんとせんか!」
「今日はこれくらいでいいです。 肩とか肘とか壊したくないですし。」
「お前はもっと練習すればすごい投手になれる!だから、俺の言うことを…。」
「うちは投手じゃない!試合に勝つために練習はするけど、投手になったつもりは無い!」
合同練習の最中でもお構い無しに監督と七瀬さんは言い合いをしている。
話の内容から唯一分かることはあれだけの直球を投げられる彼女だが、投手もやっているが本当にやりたいポジションが他にあるということだ。
「えーと。去年の彼女の大会成績は…。」
2年時彼女は投手としてしか出場しておらず、成績もかなり平凡。
新チームになり普通ならそのままエースになったのだろうが、本人が希望していない以上はピッチャーとしては使えないとおもったが、チームの方針には逆らえずやっぱり投手としての出場ばかりになっていたみたいだ。
野手として出場した試合が2試合ありそのどちらも大差勝ちで、その2試合は途中で捕手として出場していた。
彼女は成績にはほとんど残ってないが、希望のポジションはキャッチャーなのか?
まだ監督と言い合いを続けながらも、キャッチャーミットと防具をつけて同じチームの選手のボールを受けようとしている。
「なつみ!あなたがエースなんだからどんどん投げてきなさい!」
そうピッチャーに喝を入れると、なつみと呼ばれていた投手が投球練習を開始した。
なつみと呼ばれる少女の投球練習をそのまま見学していたが、とにかく球が遅い。
コントロールは良さそうだが、直球と変化球の差が斜めからみているせいかよく分からない。
最速99キロ、変化球が80キロ。
この球をよくコントロール出来るなと思って感心していた。
確かにエースになれるような投手ではないと思うが、七瀬さんとなつみさんの2人を試合で上手く交代して使えばかなり球速差があっていいんじゃないかと思った。
「江波!もっとシャキシャキ投げんか!」
なつみと呼ばれる選手のデータを付けようとしていた所で、ちょうどさっきの揉めていた監督に苗字で呼ばれてフルネームが分かり資料から探すことが出来た。
江波夏実(えなみなつみ)。
2年生時はベンチ入りはしているが、大会にほとんど出場していない。
新チームになる前は大差がついた試合に1試合に登板するだけに留まっていた。
七瀬さんが途中から捕手として守備に着いた2試合で投げた投手がこの江波さんみたいだった。
投手として登板していないときはほぼベンチで、たまに外野手として出場しているみたいだ。
「江波からも七瀬にピッチャーをやるように言ってくれないか?そうしたら江波もレギュラーで使えるんだけどな…。」
中々したたかな監督だ。
自分が思ったようにならない選手を、仲の良さそうな選手にレギュラーというご褒美をチラつかせて説得させようとしている。
「はい…。頑張って説得はしてみます…。」
見てて気持ちいいものではなかった。
俺はレギュラー争いというものを1回もしたこと無かったからこのような時の心情はよく分からない。
もしベンチの選手だったとして、レギュラーになるとしたらどうだろう?
友人を説得するだろうか?
野球を辞めさせる訳では無いし、怪我させたり危害を加えるわけでは無いから少しは楽なのかもしれない。
ただ、投手をやってもらうだけで自分はレギュラーとして試合に出れるのだから。
俺はこの後どうなるんだろう?
気になるから様子を見ていこうとはならない。
選手達の内情を偵察する為にここにいる訳じゃない。
だが、江波さんには少しでもいい方向には転んで欲しいと思ったが手助けできることもないので、他の球場を見に行くことにした。
そして、昼休憩などが終わり午後の練習は実践的な練習をやっていた。
試合形式の練習でピッチャーは全力で投げずにバッターに打たせてその打球を守備が処理して、打ったバッターもしっかりと走る。
バッターはヒットを打てばいいという訳では無い。
各バッターが内野ゴロを打つ、外野フライを打つなど目的を持ってやっている。
江波さんがレフトの守備につき、キャッチャーには七瀬さんが守っている。
江波さんの守備はお世辞にも上手くはないが、練習でも、一球一球真剣にプレーに取り組んでいる。
こういう選手は周りにもいい影響を与えることが多い。
自分が絡まないプレーでもしっかりと声を出して指示し、もしチームメイトがエラーしても被害を最小限に抑えられるように毎回カバーもしっかりとやっている。
江波さんは献身的なプレーを信条とした選手なのかもしれない。
彼女は多分あんまり実力はないが、他のプレーも見てみたくなるほどの野球に対しての真摯さを感じさせられる。
だが、やっぱり本命はキャッチャーの七瀬さんだ。
どんなキャッチャーとしての能力を見せてくれるのか…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます