第20話 合同練習!



「ふぅ。大変だった。」



嵐のように来て嵐のように去るとは行かず、大木に連れ去られたという感じだった。




「東奈くん、助けなくてごめんね。ただ、初対面の人がどんな反応するかなと気になっちゃって。ふふっ。」




ごめんねと謝ってはいるが、一切悪びれた様子が感じられないのは如何なものか。




「龍。かのんがごめん。いつもあんな感じで元気いっぱい過ぎるからみんな疲れて放っておいたらこっちの方に来ちゃったみたい。」




「いや、別になにかされたとかじゃないし気にしなくていい。それでインタビューは終わった?」




「インタビューは終わったから、もう後は帰るだけ。」




「なら、今日は俺は先に帰るわ。大会優勝したんやから今日くらいはみんなで楽しんできたらいいよ。」



「そうだね。龍、今日は本当にありがとう。また何かあったらお願いしにいくかも。」



普通の会話に聞こえるかもしれないが、桔梗がお願いしにいくかもなんて甘えたような言葉を言うこと自体が珍しかった。



俺は男としても親友としても桔梗からその言葉を聞けたことがとても嬉しかった。




「改めて優勝おめでとう。桔梗はまた学校で!玉城さんもこれから頑張ってね!」




そう2人に伝えると、返事も待たずにロードバイクに乗ってそのままその場を後にした。




誰かに挨拶していないような気がしたが、考えても出てこないので気のせいということにした。





そしてゴールデンウィークも終わり、次の大会は6月に行われるGIRLSリーグとPrincessリーグ両方から優勝、準優勝の2チームが全国への切符を争って戦う、全国女子中学硬式福岡県予選が始まろうとしていた。



GIRLSリーグ、Princessリーグ共に福岡県予選から九州大会に駒を進められるのは各2チームで、九州大会になると両リーグがここで始めて一緒になり、上位4チームが全国大会へ進めることになっている。




女子中学野球が盛んで強いのが、福岡と沖縄で九州ではダントツの2強となっている。




俺個人的にはどこのチームが全国大会に駒を進めてもいいと思っていたが、6月までには流石に1人くらいはスカウト成功させておかないと…。




俺は流石に焦っていた。

まだ1ヶ月ちょっとしか経っていなかったが、1年のうちの1ヶ月では無く、5ヶ月のうちの1ヶ月が終わってしまった。

パーセントに換算すると21%くらいは日にちが過ぎている。




平日に自転車で行ける距離のGIRLSリーグのチームはもう全て見終わった。

Princessリーグの方もかなり見に行ったが、Princessリーグの資料をまとめた時、GIRLSリーグと比べると見に行きたい選手が半分くらいしかいなかった。



俺の目には2つのリーグには実力差があった。

一番最初にできたGIRLSリーグの方がチーム数も多し、女子プロ野球に入団した9割がGIRLSリーグ出身らしい。

この結果を見ればやっぱりGIRLSリーグに行く人は多いだろう。




今週、PrincessリーグとGIRLSリーグの合同練習&練習試合があるという情報を天見さんからメールで教えてもらい、今週末はそこに行くことにした。





そして、ゴールデンウィークの次の週末になった。



合同練習場に選ばれたのは、海の上道総合公園という海の近くにたくさんの練習場が広い範囲でぽつぽつとある福岡では有名な総合公園だ。



何チームが参加するかは聞いていなかったが、このグランドの多さなら結構なチーム数がこの土日2日間の合同練習に来るのではないかと楽しみにしていた。



俺もこの1ヶ月間でスカウトとして活動してきて、ちょっとはスカウトのやり方とかもマシになってきたと思う。




だが、結果は絶望の0である。




俺は土曜日の朝早く起きて、しっかりと食事を摂って、会場に向おうと思ったが距離が40キロある。




一瞬頭の中に交通機関という甘えがよぎったが、今日こそスカウト成功してルンルン気分で自転車を漕いで帰ってくると誓って家を出た。




現地に着くと合同練習に集まっているチームは12チームあり、桔梗のいるプリティーガールズなどの強豪チームは参加していないようだった。



この合同練習で最も助かったことは見に行ったことの無いチームが半分もあった。

全部見た事あるチームだったらどうしようかと思ったが、これで今日明日で前見た選手も含めの細かいところまで見れそうで俺は安堵した。




「お、東奈くんじゃないか。この前は娘がお世話になったみたいだね。ありがとう。」




「あ、もしかして玉城さんのお父さんですか?自分も玉城監督の口添えのおかげで、最初のように身分から説明する事もかなり少なくなってとても助かってます。ありがとうございます。」




「いやいや!気にしないでくれ!娘も世話になってしまって俺にはあんなことしか出来なくて申し訳ない。」




「そんな事ないですよ。本当に一番最初にスカウトをしたチームが玉城監督のところでよかったと思ってます。」




「あはは。そう言ってもらえるととても助かるよ。それで、スカウト活動は上手くいってる?」




「まだスカウト成功してませんね…。自分がスカウトしたいと思う選手の基準が高すぎるのかもしれないです。」




「そうだね。少し調べさせてもらったけど、君は天才として野球では成功をずっと重ねてきた。だけど本当は中学生なんて失敗して当たり前なんだよ。例えスカウトが成功しなくても誰も責めることなんてない。高校に入って女子のコーチさえ頑張れれば問題ないさ。」




とても嬉しかった。

ここまで気張り続けてきたが、ちゃんとした大人の人に励まされると少しは気分も楽になるもんだなと思った。




「ありがとうございます!出来るだけ頑張ってみようと思います。」




「この2日間出来るだけ手助けしてあげよう。 いつでも声をかけてくれて構わないからね。」





心強い約束をしてもらい、自分のチームの所に戻っていった。




俺はまずどこの練習を見に行こうか楽しみしていた。

また見に行ってない6チームの中に俺が見たいと思っている選手は3人いた。

じっくりと自分の見たい選手を見て、すぐに違うチームを見に行っての繰り返しができるのは本当に楽で助かった。




今日の合同練習に集まっている12チームは一旦チームを解散して、そこからポジションとかがあまり被らないようにチームを再編成してまず試合を行うようだ。



投手も1イニング交代で、守備も1回1回変わって4回までの短い試合をするようだ。




この合同練習には、1年生は基本的には参加していないようだった。

中学生になってまだ1ヶ月くらいの1年生がまずレギュラーになるのは難しく、合同練習に参加するレベルにないという判断なのだろう。



チームがバラバラになると注目選手とかが分かりずらくなって大変かと思ったが、練習着じゃなくちゃんと試合のユニホームを着ているので、背番号で分かるのはまだ助かった。




「んー。まだあんまり見てないけど、イマイチかなぁ。」




1人目のお目当ての選手を見に来たが、去年の成績と目の前のプレーがあんまり一致しないのが気になった。


去年は大会平均打率がよくていい打撃するかと思いきや、かなりスイングも大振りでコンタクト率もあんまり良さそうではなかった。



守備、走塁はそもそも期待できなさそうだったが、一応見てみるとやっぱりあんまり良くないかも?

少しのプレーだけで判断するのもよくはないが、今のところはかなり期待はずれだった。




『3人とも成績だけだと打撃がいい選手だが、1人目がこれだともう2人はどうなんだろうか…。』



さっきまではやる気満々だった俺だったが、思ったよりも1人目の選手に失望したせいかやる気がガクッと下がってしまっていた。




俺はこの1ヶ月で結構ボロボロになった資料と、俺が作った選手の簡易的なデータ表を見直しているとあることに気がついた。



俺はとにかく野手を取ろうと思って、野手ばかりをスカウトしてきた。

それじゃ、投手は全く精査していないのかと聞かれれば答えはNoだ。投手成績もしっかりとまとめて投手も気になる選手はピックアップしていた。




だが、1度も投手には声をかけていない。



野手最優先ということもあり、後回しになっていた。


他にも要因はある。

どのチームも試合を見に行ける訳では無い為、練習を見に行くのだが投手は毎日投球練習している訳では無い。

俺は運が悪いのか、練習に行った時半分くらいの投手の投球練習を見ることが出来なかった。




中学生投手に完成されている投手はまず居ない。

どこかに弱点や欠点があるのは当たり前だし、下手すると投手よりも野手の方が向いている選手だって多い。



投手としてもそこそこだが、打撃がすこぶるいいというピッチャーだってたくさんいる。

そのような選手達を野手としてスカウトしてもまず無理だと思っている。



仕方なく投手をしている選手以外は投手をというポジションにプライドを持っている、投手を将来野手転向してもらう事を想定してスカウトして、納得出来ずに野手を渋々やるくらいなら他の高校でのびのび投手をやってもらった方がいい。




一応資料を確認すると、投手の注目選手も3人いた。

野手ばっかり気にしていたので投手がこんなにいるとは気づいていなかった。





チームシャッフルの試合が終わったあとは、3チーム合同練習が始まるみたいだ。




そこから3時間各球場にバラバラに散らばって練習を開始した。

俺は選手のチェック漏れがないか一度付けた評価表を見返しながら練習をチェックした。




1度見た事ある選手達ももう一度評価しなおした。

上方修正の人もいれば下方修正の人もいた。

スカウトを見送った選手がもう一度スカウトしたいと思うレベルまで上方修正された選手はいなかった。




「うーん。やっぱりお眼鏡にかなう選手はそうそう簡単には現れそうにないな。」




この土日でスカウトできるのか?

期待と不安が半々ながらスカウト活動を続けるのであった。





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