第21話 記憶の扉

何とか王の申し出を断った。

しかし、惜しい話だったな。


・リンネ

「浩二は男らしいね。

エミリアの事を一途に思ってるんだ。

私は素敵だと思うな。」


リンネが盛大に勘違いをする。


・「エミリアは一国の姫様だからね?

俺なんて眼中にないさ。」


俺の言葉に固まるリンネ。

前にもこんな事があった気がする。


・サリウス

「それで、僕たちにやってほしい事って?」


・「もうすぐあいつがやって来る筈だ。

今日か明日にでも。」


・リンネ

「あいつ?」


・「帝国の勇者だよ。

魔道兵器を使ったと思ってる筈だ。

あいつは魔将軍が討ち取られた事は知らない。

恐らく報告が入る前に国を出たと思う。

あいつはそういう奴だ。

自分の利益しか考えない。」


早くリンネをモノにしたい。

その事しか考えていない筈だ。


・サリウス

「帝国勇者、、、」


サリウスの顔が厳しくなる。

そりゃそうだわな。

殺され掛けた訳だし。


・「そこで頼みがある。

まずは俺に接触させてくれ。」


・リンネ

「浩二があいつに接触するの?」


・「ああ、あいつには借りがある。

大きな借りがな。」


思い出したくはなかった。

しかし、思い出してしまった。

もう止まる事は出来ない。


・サリウス

「僕は、あいつを殺したい。」


サリウスが震えている。

怒りで勝手に震えてるんだろうな。


・サリウス

「でも、浩二が言うのなら譲るよ。

今の僕があるのは浩二のお陰だから。」


ありがたいね。

でも少し違う形だと思うぞ?


・「とりあえず言っておくが、サリウスは思いっきりあいつを殴れるぞ。」


・サリウス

「そうなの?」


そうなんです。

思いっきり殴ってやってください。


・「じゃあ、これから話す事をよく聞いて。

確実に実行してほしい。」


俺は計画を話した。

めちゃめちゃ反対されたけどね。

何とかお願いして通して貰った。

そしてこの事を王にも話す。

めちゃめちゃ反対された。


正直俺も嫌だよ?

でもさ、普通に仕返ししても面白くない。

そうだろ?


そして、その時は思ったより早くやって来た。


・門番

「報告、帝国の勇者一行が来ています。

報酬を受け取りに来たと、、、」


来たか、思ったよりも早かったな。

やはり自分の事しか考えてない。


・「んじゃ段取り通り宜しく。」


俺の合図でリンネとサリウスが奥に移動。

近衛兵と護衛の兵士を半分にした。

これで良しと。

どうせ、直ぐに現れるだろう。

あいつが大人しく待っているとは思えん。


ドゴーン


扉が蹴破られた。

そして数人の男が入ってくる。

どんな登場だよ。


・帝国勇者

「おうフーバ王、元気にしてたか?

思ったより元気そうだな?」


礼儀も何もないな。


・帝国勇者

「おお?そこに居るのは無能な勇者池田じゃないか?お前、こんな所に居て良いのか?」


エルデンのゲートの事を言ってるんだろう。

ここはすっ呆けておくか。


・「何の事だ?」


・帝国勇者

「そうか、知らないか。

なら教えてやろう、お前の国で厄災だ。

今日中に始まるぞ。

これで帰る所が無くなるな!」


お前は喋りすぎだな。

その発言で暗躍してる事がバレるぞ?

ここでもあいつに乗ってやるか。


・「そんなバカな、、、」


俺が愕然とする姿を目の当たりにする。

そして嬉しそうに話し出す。


・帝国勇者

「フーバの王。

こんな役立たずを呼んで何しようってんだ?」


いちいちムカつく奴だ。


・フーバ王

「其方には関係のない事だ。

して、今日は何用で来たのか教えてくれ。」


フーバ王の言葉にトゲがある。

流石にカチンと来ているらしい。


・帝国勇者

「解ってるだろ?リンネだよ。

さっさとよこせ。

後はこの国の勇者だな。

あいつとは約束があるんでな。」


さてさて、この先どうなるかな。

上手く頼むよフーバ王。


・フーバ王

「無礼者め、帝国にやる報酬などないわ。

役立たずの魔道兵器をもってさっさと帰れ!」


あ、、、フーバ王がキレた。

やっぱり王もムカついてたんだな。


・帝国勇者

「んだと?てめぇ誰に向かって口きいてんだ。

俺は帝国勇者だぞ?

逆らうと帝国が動くことになるぞ?」


子供か!っと突っ込みたい。


・フーバ王

「事実を言ったまでだ。

厄災は我が国の戦力だけで退けた。

浩二殿のお陰でな!」


良いね、上手い振り方だ。


・帝国勇者

「ああ?こいつのお陰だと?」


見事に俺にヘイトが移る。

そして俺に攻撃してきた。


・「(AP解除)」


ドス


殴られた。


・「ぐっ、、、」


痛い、、、めちゃめちゃ痛い。


・帝国勇者

「どうした?もうお寝んねでちゅか?」


ドス、ドス


・「うぐ、、、」


一発一発が重い、、、

流石、最高LVの攻撃。

直ぐに意識が飛びそうになる。

だが、気絶するわけにはいかない。


・帝国勇者

「おら?どうした?

お前の両親も泣いてるぞ?」


帝国勇者の攻撃は続く。


何度も殴られる。

その度に蘇る。


何度も蹴られる。

その度に思い出す。


俺は攻撃を受け続けた。


・帝国勇者

「まったく、情けねえ。

こんな無能な息子がいるなんて不幸な親だ。

まあ俺が殺してやったんだがな。

良かったじゃないか?

どうせ息子はしょうもない人生を送るんだ。

見ないで済んでせいせいしてるだろうよ。」


帝国勇者が吐き出す言葉で理性が飛ぶ。

だが歯を食いしばって耐える。


殺す、殺す、コロス。


殺意が蘇る。

憎悪が溢れ出す。


・帝国勇者

「お前なんて生きてる価値がねぇ。

さっさと死んじまいな。」


遂に剣を抜いた。

俺を殺すつもりだ。


その時、全ての感情を取り戻した。

全てを思い出した。


あの時の無力感。

怒り、悲しみ、涙。


そして両親の愛。

全てを取り戻したんだ。


・「サリウゥゥゥゥス!」


俺の合図でサリウスが飛び出す。

そのまま帝国勇者を全力で殴り飛ばす。


・帝国勇者

「ぶほぅぅ」


無様に吹き飛ぶ帝国勇者。

いや、、、、山元。


・山元

「いてぇ、、、いてぇ、、、」


殴られて半泣きになる。


・サリウス

「久しぶりだな、帝国の勇者。」


・山元

「てめぇ、死にかけだった筈じゃ。」


・サリウス

「残念だったな。

貴様を殺すために戻って来たぞ。」


その瞬間、山元をかばう様に動く帝国兵。


・山元

「くそ、今日は引いてやる。

だが只で済むと思うなよ?

お前ら全員殺してやる。

絶対だ、絶対だぞ!」


山元はそのまま逃げだしていった。

サリウスは直ぐに俺の元にやって来る。


・サリウス

「浩二、、どうして?」


ボロ雑巾の様になった俺を抱えるサリウス。

サリウスは素早く『リバーサー』装備する。

しかし俺はそれを拒絶する。

忘れない為に。

痛みをかみしめる為に。


・サリウス

「一体何があった?

両親が殺されただと?

君はあいつに何をされたんだ?」


サリウスが涙を流して聞いてくる。


・「俺の両親は、あいつに殺された。

そしてあいつは逃げた。

権力を使い罪をごまかした。

自分の罪から逃れようとしやがった。

そして俺は、現実から逃げたんだ。」


ポツポツと話し始めた。


・「俺の記憶は薄いものになった。

自分の存在さえも否定した。

だから、思い出す必要があったんだ。」


知らないうちに涙が溢れていた。

やったぞ、、、涙も取り戻せた。


・「俺は、、、あいつを殺す。

あいつはやり過ぎた。」


意識が遠のいていく。


・「サリウス、頼まれてくれるか?」


・サリウス

「何でも言ってくれ。」


・「俺が眠っている間、、、

エミリアを守ってくれ。

エリシャとリーム、そしてエルデン。

この世界を守ってくれ。」


そう言い残し、俺は意識を手放した。

サリウスがは俺を強く抱きながら泣いた。

リンネも王も涙を流していた。



~エルデン王国~


・エリシャ

「よし、これで厄災は終わり。」


見事に魔将軍を討ち取ったエリシャ。

エルデンの被害は皆無と言っていい。

リームや兵士達と上手く連携して快勝した。


・ロドルフ

「やったぞ、遂に乗り切ったぞ!」


ロドルフの掛け声とともに勝どきが上がる。

しかし、その時通信が入った。

サリウスからだ。


・エリシャ

「サリウス?こっちの厄災は終わったよ。

みんにゃも無事だって浩二に教えてあげて。」


エリシャは意気揚々と報告する。


・サリウス

「浩二はいま、、、」


サリウスは浩二の負傷を伝えた。

浩二の状態を聞いたエリシャは驚愕する。

あの強い浩二が重傷を負った?

ありえない。

APの概念を知っているエリシャならそう思う。

絶対にありえない事なのだ。


・エリシャ

「どういう事だ!」


エリシャは力の限り叫んだ。

その様子に驚くエルデン兵たち。


・サリウス

「すまない、、、」


謝る事しか出来ないサリウス。

エリシャの怒りは収まらない。


・エリシャ

「そこで待ってろ、私はお前を許さにゃい。」


一方的に通信を切断する。


・エミリア

「どうしたの?浩二に何かあったの?」


心配そうに聞くエミリア。

エリシャは話すべきか迷った。


・リーム

「悩むことは無いわ。

全てを話しなさい。」


エリシャの事は一番よく知っている。

エリシャは優しい。

恐らくエミリアを心配しているのだろう。


・エリシャ

「解った、落ち着いて聞いてほしい。」


エミリアは嫌な予感がした。

この先は聞きたくない、そう思ってしまう。


・エリシャ

「浩二が重症を負った。

かにゃり深刻にゃ状態らしい。

私はすぐにフーバに行く。」


エミリアが崩れ落ちる。

しかし直ぐにリームが立たせる。


・リーム

「しっかりしなさい。

今あなたがする事は悲しむ事なの?

違うでしょう?

一刻も早く浩二の元に向かうのよ。」


リームの言葉で我に返る。


・エミリア

「お願い、私を連れてって。」


エリシャに嘆願するエミリア。

エリシャは笑顔で答える。


・エリシャ

「もちろんだ。一緒に行こう。」


エリシャはエミリアを抱えて飛んだ。

一秒でも早く浩二の元に行くために。


・リーム

「浩二、、、どうかご無事で。」


そんなエリシャ達を見送ったリーム。

その体は震えていた。

本当は自分が行きたかった。

大切な人だから。


・コーン

「さあリーム殿、我々も急ぎますぞ!

早馬で行けば3日で着く道のりです。

根性で2日で走り切ってやりましょうぞ。」


勤めて明るく話すコーン。

2日で走破するのは無理な話である。

リームを励ます為にワザと言い放つ。


・ロドルフ

「私からもお願いする。

浩二殿は我が国の宝だ。

どうか救ってやって欲しい。」


二人の言葉を聞きリームは決意を固めた。

自分も浩二に逢いたい。


・リーム

「ありがとう。」


リームは一言だけ残して走り出す。

早馬にまたがり駆け抜ける。

コーンと共にフーバに向かうのだ。

自分の英雄に逢うため、

愛する人に逢うために。

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