第8話 神様

砂煙がやんできた訓練場。

中央付近は大きく陥没していた。


・リーム

「はぁはぁはぁ」


息を切らして中心を見つめるリーム。

エミリアは動けないでいた。


・「いや~、凄い迫力だったよ。

思わず逃げそうになった。」


砂煙の中に人影がある。

浩二の声が聞こえた。


・リーム

「え、、、平気なの?」


リームが唖然としていた。

それもその筈、リームの炎魔法はこの国一番の兵器とされている。リーム自身も自信を持っていた。

新しい魔法を覚えたい一心で全力で放った。

無事では済まない筈なのに。


砂煙が完全に収まる。

そこには無傷の浩二とエリシャが居た。

エリシャは恐怖のあまり浩二に抱き着いている。


・エリシャ

「こ、、、、怖かった。」


エリシャは震えていた。

相当怖かったんだね。


・「でもこれで解ったんじゃないかな?

APが規格外なんだって。」


魔法を食らう前7000に設定しておいた。

兵士長コーンの渾身の一撃は280。

さて、魔法の威力はどれ程なんだろう?


・エリシャ

「AP6640、、、まだまだ余裕がある?」


すごいな、魔法の攻撃は360も与えるのか。

しかも範囲攻撃、、、

魔法力の強い人が優遇されるのも頷ける。


・エミリア

「浩二ぃぃぃぃ」


エミリアが走って来て俺に体当たりをする。

いや、抱き着きに来たのか?


・エミリア

「死んじゃったと思った。」


泣きながら俺に抱き着くエミリア。

そんな姿を見て放心状態のリーム。


・リーム

「私の、最大の魔法が、、、」


相当自信があったらしい、、、

一人でブツブツ呟いている。

何か悪いことしたな。

申し訳ない。


すっかり自信を無くしたリームを慰めるエリシャ、エミリアはどうしたら良いか解らない様子だった。


これで全ての説明が終わった。

準備万端だ!



~グランデの厄災・第2波当日~


俺達は戦場が一望できる丘の上に居る。

隣にはエリシャとエミリア。

リームはグランデ軍の最前列に居る。

魔法を放った後、後退する予定らしい。


グランデ軍の陣形だが、、、

魔法部隊が最前列。

その後ろに歩兵部隊。

最後尾の後ろ、少し高い場所に変な機械?

何だあれ?


・エリシャ

「あれが「バンガード」の魔導兵器だ。

あれがあるから帝国は強い。

リームがそう言っていた。」


成る程、救援要請を受けた国にはあの兵器を貸し出している訳ね。つまり、あの兵器を使う前に倒せば良い訳だ。


・「段取りは解ってるね?」


・エリシャ

「勿論だ、ゲート崩壊後グランデ軍と合流。

勇者とにゃのってから突撃。

魔物が多い場合は一旦待機。

地面が赤く見える場所には近づかにゃい。

浩二の攻撃後、漏れた敵をあたしが倒す。

これで良いか?」


・「赤く見える地面はエリシャにしか見えない。

他の兵士を突撃させない様にお願いね。

最初の名乗りが肝心だからね。」


・エリシャ

「解った、任せてくれ。」


この作戦はリームにも説明してある。

後はその時が来るのを待つだけだ。


そして、ゲートが割れ始める。


バリバリバリ


何度聞いても嫌な音だ。


・エリシャ

「では、言って来る。」


・「気楽に行こう!」


今回、APは15000に設定した。

正直十分すぎるくらいだろう。

制限解除すればもっと上がるけどね。


バリーン


遂にゲートが割れた。

一斉に魔物が押し寄せる。


・「ふむ、エルデンと同じ様な感じだな。」


では、こちらも始めますか。



~グランデ軍最前列~


・兵士

「割れる、、、割れるぞぉぉ」


・兵士

「落ち着け、今回は魔道兵器がある。」


・兵士

「勇者はまだ動けないのか?」


様々な感情が入り乱れる。

グランデ軍の兵士は恐怖に襲われていた。


戦闘前の軍議に参加していたリーム。

その時、彼女は軍師に言われた。


・軍師

「この作戦が最後だな。

これが終わればお前らは奴隷だ。

2人共この国を去るがよい。」


会議に参加していた兵士長、王すら何も言わなかった。私は今まで何のために頑張って来たのか。

彼らの対応が忘れられない。

その事が頭から離れない。


・リーム

「この作戦が失敗したら私達は、、、」


大きな音がした。

ゲートから無数の魔物が湧いてくる。


想像以上に多い。

ダメだ、浩二の作戦では勝てない。


昨日の模擬戦を見ていたリーム。

確かにエリシャも浩二も強かった。

しかしこれ程の大群では対処できない。


エミリアに浩二の魔法の事は聞いた。

しかしそんな話、信じれる訳もない。

圧倒的な魔物の数を目の当たりにして、リームの心は完全に折れてしまった。


・リーム

「終わった、、、。

やはり魔道兵器に頼るしかないの?」


絶望の2文字がチラつく。

光のない未来が近づいてくる。


・エリシャ

「待たせたにゃ!我がにゃは勇者エリシャ。

魔道兵器にゃど必要にゃい。

ここは私に任せるにゃ!」


最前列の上空を低空で飛びつつ叫ぶ。

そしてリームの隣に着地する。


・エリシャ

「リーム、酷い顔してるにゃ。」


エリシャがリームの頭を優しく撫でた。


・リーム

「もうじき私達は奴隷になるんだよ?

あの汚らわしいバンガードの勇者の。

それならば、いっその事ここで、、、」


リームは耐える事が出来なかった。

大きな涙が頬を伝う。


・エリシャ

「大丈夫、そんにゃ未来はやってこにゃい。

あたしを、浩二を信じろ。」


リームにそう告げるとエリシャは動き出す。


・エリシャ

「みんにゃ、聞いて。ここはグランデが勇者、エリシャがにゃんとかする。しっかりと見届けて!」


出来る限り大きな声で叫ぶ。

そして魔物の群れに向かって飛び立つ。


兵士達は何が起きたか解らなかった。

絶望の中に身を置く者達。

今の兵士達にとって勇者の存在は輝く希望だ。

例え僅かな光でもすがりたくなる。

兵士たちに伝染していく。


『勇者が来た、勇者が来てくれた!』


更に飛び立つ姿を見て誰かが叫ぶ。

人が空を飛ぶんでいる。

非常識な光景が背中を押す。

叫ばずにはいられない。


『勇者が我々を救いに来た!』


兵士達の希望を背負いエリシャは飛んでいく。

たった一人、無数の魔物達に向かって。



~グランデ軍・魔道兵器周辺~


・軍師

「どうした?何故前線は動かない?

早く前進して魔法を放たぬか!」


怒号が飛ぶ。

そして暫くすると報告が入る。

勇者が現れたと。


・軍師

「動けぬのではなかったのか?

おのれ、どこまで邪魔すればいいのだ。

仕方がない、魔道兵器充填急げ。

勇者もろとも消し去ってやる。」


頭に血が上り過ぎて周りが見えていない。

既にバンガードとの契約も忘れていた。

彼は大きな力を得た事で神になった気でいた。


そして彼はやってはいけない事をする。

軍師と呼ばれる人間とは思えない行動に移る。

作戦指揮を任されるには、器が足りない様だ。


彼に軍師の適正はない。

ただ貴族として代々軍師の家系に生まれた。

戦争の経験もない。

戦闘の経験もない。

血筋だけで威張って来た人間だった。



~魔物の軍勢に向かうエリシャ~


現在魔物に向かって飛行する途中。


・エリシャ

「うぅ~想像以上に凄い数。

これは結構勇気がいるにゃ。」


圧倒的な数が押し寄せる。

こんな光景、今まで見たことがない。

魔物は一匹一匹が大きい。

実際の数より多く見えても仕方ないだろう。

魔物の進路上に降り立ったエリシャ。


・エリシャ

「浩二、、、信じてるよ。

私を助けて。」


魔物の大群を睨みつけてしっかりと立つ。

その光景はまさに勇者よ呼ぶにふさわしい。

後世に語り継がれるであろう戦いが始まる。



~少し離れた丘の上~


エミリアと一緒に戦場を眺めていた。

今回の数はエルデンの時より少ないな。


・「何か、俺達の時よりかなり少ないね。

魔物も小さく感じるし。

遠くに居るからそう感じるのかな?」


・エミリア

「浩二もそう感じた?」


エミリアも同じ意見だった。

見た目で判断してはいけない。

だが、何と言うか、、、


・「あの時より弱そうな感じがする。」


エミリアは頷いていた。

とは言え失敗は許されない。

ならばやれることは一つ。


・「んじゃま、派手に行きますか。」


俺一人の時では使わなかった機能を使う。

今まで使う必要が無かったからね。

ゲームの定番『音声チャット機能』だ。

遠くに居ても意思を伝える事が出来る。

そしてこの声はエリシャにしか聞こえない。

なんて便利な機能なんでしょう。


・「エリシャ聞こえるか?

敵に向かって教えた兵器を投げ込んでくれ。

君の腕力ならそこから届くだろう。

それを見て攻撃に移る。」


エミリアには独り言にしか聞こえない。


・エミリア

「ここで言ってもエリシャは居ないよ?

どうしたの?大丈夫?」


そう言えばエミリアには言ってなかった。

後で説明しておこう。



~エリシャサイド~


・エリシャ

「改めて凄いと感じるよ。

こんにゃに遠くても浩二の声が聞こえた。

はっきりと聞こえる。

私には浩二が居る、勇気を出せ。」


エリシャは浩二に教わった武器を選択。

3個あるうちの一つ。


・エリシャ

「行くぞ、『グレイプニール』」


エリシャは輝く光の球を全力で投げる。

敵の頭上までとは行かなかったが敵軍近くまで投げ込むことに成功した。

そして超兵器が展開される。


輝く球が空中に停滞。

そこから無数の光の矢が空に飛び出す。

上空に飛んだ光は弧を描き、、、

範囲内の魔物に向かって突き刺さる。


*グレイプニール

誘導兵器の一種。

光の球を形成し、そこから放たれる光の矢は範囲内の敵を自動で攻撃してくれる。ゲームであれば停滞する光の球はそこまで遠く飛ばない。固い敵で無ければそのまま敵を釘付けにして倒す事も可能。

敵を足止めする時などに便利。


・エリシャ

「む?私の攻撃とは別にピンクの光が見える。

あれは浩二のいる丘の方から?」


細いピンク色の線がまっすぐ伸びていた。

すると、、、


・エリシャ

「地面が赤くにゃった!」


魔物のいる場所が赤く光った。

そして、、、

大きな光の矢が天から降り注ぐ。


何度も何度も、、、

何度も何度も何度も。


魔物たちの断末魔が聞こえる。

エリシャは立ち尽くしていた。

グレイプニールの光の矢など豆鉄砲だ。

信じられない程の威力。

魔物の群れが成す術もなく消滅していく。


そして、2射目のピンクの光。


再び訪れる光の矢の弾幕。

絶え間なく降り注ぐ光の矢。

魔物の軍勢を容赦なく消滅させていく。


・エリシャ

「神、、、様?」


エリシャは呆然と見つめ続けた。

とても綺麗で、凄惨な光景を。



~浩二サイド~


・エミリア

「でた!スプライトフォール!

連射も出来るの?

凄い!凄いよ浩二!」


エミリア大好きスプライトオール。

可愛い女の子が褒めちぎってくる。

ついつい調子に乗ってしまう。

気が付けば4発目のスプライトフォールを放っていた。そして、魔物たちは全て消滅した。


・「あ、、、」


実はエリシャに数匹は残そうと考えていた。

実際に倒して貰った方が良いと思ってさ。

でも、エミリアがあんなに褒めるから。


・「やりすぎちゃった!」


全く緊張感のない浩二たちであった。

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