・みにくいアヒルの子

「私が見返してあげてもいいよ。」

私はその言葉を聞いて心臓が跳ねる音を聞いた気がした。心待ちにした言葉だった。

「え」

「ただ、あなたの話を私に頂戴。」

「話?」

「そ。私はこういう子達を減らしたいと思ってるの。活動に使わせて貰えたらって思って。」

活動って虐待やいじめを減らす運動なのだろうか。それはいいことだな。そんなことでいいなら

「わかった。」

「ありがとう。じゃあ、話し合いの場を設けて欲しい。期間は来週月曜から今月中。設けられないのであれば来月の一日にみんなが揃うまで私が入り浸ると伝えて。家族全員に」

私は呉橋さんの言われた通りにした。私、父、真理さん、茉莉花さん、亜里沙さん、呉橋さん全員揃えた。

「ありがとうございます。私はまず貴方達家族に離婚を提案します。」

すると、呉橋さんはどこから仕入れたのか真理さん達の黒い情報と自分の語彙を武器に言いくるめてくれた。特に茉莉花さんが酷くて裏切られた気持ちになった。


「ねぇ、お父さん。良かったの?離婚して」

あれから2ヶ月父達と真理さんは離婚した。

「いいよ。あんな疫病神いらないさ。」

「うん。あ、私友達と約束があるから」

「そうか。留学のこと言い忘れないでね。」

そう、私は留学することにしたんだ。それを呉橋さんと春乃に伝えるため待ち合わせ場所のレストランに行く。二人とも喜んでくれて私は嬉しかった。

「ああ、私トイレ」

と春乃が席を立つ。すると、呉橋さんはなにか紙とペンを出した。

「これは?」

「契約書。前に言ってたあなたの話をくれないかってやつ。」

それならと紙に目を通す。

「フィクションとしてって……何?」

「ノンフィクションにしてしまうと、精神に異常をきたしてしまう可能性が出てくるの。だから念の為よ。」

なるほど。知識豊富でそう言う活動をしている呉橋さんが言うならそうかもしれない。私は契約書に名前を書いた。

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「あれ、小姫は?」

と、声がする。どうやら、飯島さんがトイレから戻ってきたようだ。

「小姫って誰?」

私はカバンから本を出し話を書いていく。

「あれ?誰だろ。」

「それよりこの後友達と約束があるんでしょ。」

「ああ、そうだ。ごめんね幼なじみが帰ってくるの。じゃあ、お金置いとくから払っといて」

とテーブルに金を置くと飯島さんは出て行く。すると入れ違いに人が入る。そして私の前に座る。

「お話集めはどんな感じかな。聖羅。」

整った顔にふわっとした金色の髪。首には女性物のネックレスをし、ダサいTシャツを着た変わり者の残念イケメン。

「兄様。うん。今新しく話が出来たよ。」

「そう。聞かせて」

私は本を描き続けながら兄に話す。すると彼は楽しそうに私の話を聞く。

「タイトルは何にしたの?」

「シンデレラ」

すると彼はクビを傾げた。

「んー。なんか合わなくない?」

「そう。」

「それなんかより、みにくいアヒルの子の方が似合うと思うけどな」

「あれは幸せの絶頂で話が終わる。でも、シンデレラは幸せになりたてでで終わるわ。今回はそちらの方が合うと思うけど。それにペロー童話では魔女が手を貸すけど、グリム童話では周りの動物達の協力で変身するわ。」

「そうだけどさ。まぁ、これ見てよ」

そう言うと兄は自分のさっきからいじっていたスマホ画面を私に見せる。そこには南小姫の絵が海外で評価されているという記事だ。スクショだろう。どうせこの記事ももう消えている。

「アンデルセンはみにくいアヒルの子を幼少期に貧乏で大人になり評価された自分を投影して書いたと言われている。初めはただの絵だったものが評価された彼女はどこか似てる気がするよ」

「兄様がそんなに言うなら、そうするわ。」

私は題名を『みにくいアヒルの子』に書き換える。

「ところで兄様こそ新しい話持ってきてくれたの?」

「もちろん。」

「それは楽しみだわ。」

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