・人魚姫
「そうなの。ねぇ、長崎君。この話を本にしてみない?」
「え?」
僕は耳を疑った。この僕の何を本にできることがあるだろうか
「いやね。私将来小説家になるのが夢なの。」
僕はそれを聞いて耳を疑った。彼女は現実主義者だと思っていたが、そういうメルヘンな面も兼ね備えているのか。
「色んなコンクールに参加してるんだけど、今度ノンフィクション部門のコンクールがあるよ。フィクションを作り上げてもいいんだけど、もし優勝しちゃったら雑誌に載っちゃうんだって。これからの友達がそれを見たとして、何か言われたら嫌じゃない。だったら、君の逆転劇を書いた方が花じゃない?学校のいじめられっ子がいつの間にか学校のマドンナと付き合うなんて」
「別にいいけど。呉橋さんはそれでいいの?」
「受けてくれるの?ありがとう!ああ、ちなみに書くのは私目線からよ。恋のキューピット的な役割が視点て斬新だと思うの。あ、明日契約書持ってくるから書いてね。じゃぁね!」
と、彼女は興奮して普段出さないような弾んだ声を出しながら一方的にしゃべり僕と別れた。彼女はほんとに本が好きなのだろう。あんなに分かりやすく楽しそうな彼女は初めて見た。
次の日、僕は呉橋さんに図書館に呼ばれていた。未来と帰るのでなるべく早くして欲しい旨を伝えた。
「わかったわ。じゃぁここにあなたの名前を書いて」
呉橋さんはたくさんの文字が羅列した契約書の一番下を指す。そこには少し違和感のある開き方をした空欄がある。僕はそこに名前を書いた。
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「ふふ、馬鹿だわ。契約書はちゃんと確認してからサインするものよ長崎君。」
「ながさ……あれ、私図書館に何しに来たんだ?あ、聖羅ちゃん帰ろ?近くに可愛いパンケーキのお店できたの」
「いいね。行きましょ。」
ほんとに彼は馬鹿だわ。海の中では活き活きしていても学校では苦しのは変わらない。更に言うと、田上と仲良くしすぎた故に反感を多く買って自分の首絞めて、ドMの方かしら。
「そういえば、田上さん図書館に来るなんて珍しいね」
「ね。自分でも不思議なんだよね。なんで来たんだろ。無意識下に何かを欲してたのかな?」
「ふふ。なにそれ」
実際田上はクラスで自分と長崎の関係を隠した。それは、いじめを恐れてる訳でもなく、彼を愛してない訳でもない。第一に信用をしていないのだ。前に話した長崎を虐めてた奴は実は彼の数少ない幼なじみの一人だ。よく田上に長崎のあることないことを吹き込んだと言う。それで自分に田上がなびくと自惚れたのだろう。結果的に悪口を言ういじめっ子もそんな噂がたつ長崎も嫌いという判断になり、人間を信じられない人になってしまった。彼女を本にしても良かったが、信用されてない私の言葉に、はいそうですかと首を縦に振ってくれると思ってない。それに自分の正体がバレる可能性もある。だったら、滑稽な長崎を見てる方が随分楽しい。彼は息苦しい水中での生活を好み、自分と離れた存在に恋をしたが叶わぬまま消えてしまう。
「人魚姫のようね」
タイトル決まり。ああでも、片想いではあるが人から見たら一応叶ったジャッジになってしまうのかな。
「え、聖羅なんか言った?」
「ううん。なんでもない。それより、まだ誰にも言ってないんだけど私また引っ越すことになっちゃったの」
「え、もうすぐ中三なのに?」
「そう。時期が悪いよね。親の都合。だから、今日は精一杯奢ってよね!」
「もう、それ目当てじゃん!(笑)引っ越す前日教えてね。クラスの女子で精一杯祝ってあげる。」
「ふふ、ありがとう。」
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