第十三話 新たな少女。

 春休みが終わった。

今日からは三年生としてあずま高校に通うことになる。

別に高校が嫌いなわけではないし、学校に着いてしまえばなんてことないんだけど、気乗りしない。

自分の時間が沢山取れた春休みがもう恋しい。


 「はぁ。行って来ます。」


 まあ、挨拶を返してくれる人はいない。

れんは入院中だし、母さんは夜勤明けでまだ寝てる。

うちの状況を鑑みて遅い時間の勤務は減らしてもらえてるみたいだけど、全く無いとはいかない。

だから今のはただ声に出して気持ちを切り替えただけ。


 学校までの道のりは自転車で20分くらい掛かるが、道はかなり平坦で、楽に漕げる。

道に咲いてる花はどれも太陽を浴びて輝いて、暖かい風に揺られていた。



 年度の初めは前年度のクラスで一度集まり、そこで新しいクラスが発表される。


 「おひさ〜。春休みはどうだったよ?」

 「ん?おは。」


 座って早々声をかけてきたのは同じ軽音部のバンドメンバーで二年の時にクラスも同じだった女の子の桔梗冴月ききょう さつきだ。

かっこいい名前だよな。

東高校はこの地域ではかなり頭の良い方で、生徒も大人しそうな子が多いなか、冴月は軽くヤンキーっぽい。

髪は黒のロングでクラスでは静か、ピアスはかなり開いているが、髪で隠している。

でもやっぱりどこか近付き難い雰囲気がある。


 「で、どうだった?」

 「時間があるって最高。」

 「ちゃんと外出したんかよ?」

 「病院行った。妹の怪我で。」

 「え?れんちゃん怪我したの?大変じゃん。」


 学年も部活も違うこいつが蓮のことを知っているのは、蓮のこの学校での知名度が相当高いことを示している。

蓮は中学生の頃から全国で活躍していた上、高校に入学してすぐの新人戦で優勝している。


 「うん。まだ入院中。」

 「入院してんの!?相当やばいってことじゃん。」


 蓮はまだ普通に生活できるレベルに回復していないので病院で安静にして、リハビリしてから退院する予定になっている。


 ーキーンコーンカーンコーン。


 「じゃあね。クラスどうなるか楽しみー。」

 「うい。」


 予鈴が聞こえてきて冴月は自分の席に戻っていった。

何組になるかな。

自動販売機が近いクラスがいいな。


 「おはよーう。みんな久しぶり、元気だったか?いやー、何度末は忙しいね。」


 このベテランおじさん先生が元担任。


 「じゃあクラスか書いてあるプリント配るから、放送入ったら移動してね。」


 回ってきたプリントを見ると桔梗冴月の名前もあった。

 放送後に移動すると、3年ということもあってかなり顔見知りも多かった。


 「また一年よろしくー。」

 「よろしく。」


 こんな感じで初日は終わった。

蓮のお見舞いに行こうかな。

来た時と同じ道をボーッとしながら帰った。

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