第七話 暖かい雨。

 家を出て何処を目指すわけでもなく歩く。

当たり前のことだけど、僕の気持ちに関係なく、街の様子は普段通りだ。

自分だけが置いて行かれた感じがする。

 「余計なこと言ったかな。」


 ーーポタ、ポツポツ。


 「あー、雨か。傘持って来なかったな。」


 走って帰ればすぐだけど、帰りたくない。

近くの小さい頃遊んだ公園に四阿あずまやがあったはず、とりあえずそこに行こう。






 「寒いな。」


 小学生の時以来来ていなかった公園は昔のままだけど、なんだか小さく見えた。


 あの時、れんに言ったことは全部本心だった。

性格最悪な妹だけど、その時は本当に心配だったんだ。


 「あれ、つむぎ君?」


 淡藤あわふじだ。

無意識に俯いてしまう。

「なにしてるの?」なんて聞かれたらなんて言えばいいんだろう。

今は僕のことを知ってる人に見られたくなかった。


 「おーい紬くん?」


 なんか言わないと。


 「あ、淡藤。」

 「うん。なにしてるの?」


 聞かれた。


 「いや、散歩してたら雨降ってきて帰れなくなって。」


 普通に言えた。と思う。


 「そうなんだね。じゃあ、一緒に入っていく?」

 「ありがとう。」


 現金な話かもしれないけど、さっきまでのどんよりした気持ちが人生初の相合い傘の緊張で何処かに行った。

淡藤の肩が濡れてないかとか体が当たりそうで距離が気になるとかそんなことばっかり考えてた。


 「紬君さ、蓮ちゃんとなんかあったでしょ?」


 え、なんで淡藤がそんな事きくんだ?


 「いや、別に、ただちょっと喧嘩しただけ。」


 なんでわかるんだろう。女の感とか?


 「うそ。何年紬君のこと見てると思ってるの?嘘とかバレバレだよ。」


 女の感じゃなくて幼馴染の経験らしい。

なんか、緊張も解けて気が抜けてしまった。

淡藤になら言ってもいいかもしれない。


 「今日、蓮と病院から帰る時、手術怖がってそうで、俺は心配してただけなのに。なんか。」

 

 うまく言えない。


 「うん。紬君優しいもんね。蓮ちゃんのこと気にしてあげてたんだね。」

 「うん。」

 「でも上手く気持ちが伝わらなくて喧嘩になっちゃったんだ。」

 「……うん。うん。」


 なんで、なんでこんなに優しいこと言ってくれるんだろう。

やばい。目の周りが熱くなってきた。

自分で考えてた以上に気にしてたみたいだ。


 「大丈夫。蓮ちゃんだって分かってくれるよ。」

 「うん。ありがとう。」


 淡藤が見つけてくれてよかった。


 「蓮君ちょっと寄り道してこ。」


 淡藤はしばらく泣いている僕の事を静かに見守ってくれてからそう言った。


 「え?」

 「ほら、行くよ。立って立って。」


 淡藤に手を引かれて連れて行かれたのは家の近くのコンビニだった。


 「私さ、ここの肉まん好きなんだよね。受験の時によく食べてた。食べてみない?」


 淡藤のお気に入り。


 「食べる。」


 僕の方は肉まんを、淡藤は肉まんをオススメしてたのにピザまんを食べてる。


 「美味しい。」

 「そうでしょ。美味しいのよ!他のところよりお肉がゴロゴロしてて、食感がすごくいいの!」


 肉まんの美味しさについてえらく力説している。

普段買い食いなんてしないし、淡藤と一緒に食べる肉まんは特別で、満たされたのはお腹だけじゃなかった気がする。

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