最終話 手品師の真実

「あなたのマジックには、タネがありませんね?」

 

 田中剣は私の秘密を言い当てて見せた。しかし私もこのままあっさりと認めるわけにはいかない。田中剣というこの人も、私にとっての観客には違いないのだ。ただいつもと違うのは、観られているのは私のマジックではなく、私自身だということだ。だからこそ、私も秘密を守るためのベストを尽くしてみることにしよう。


「田中さんがおっしゃっていることの意味がわかりませんね。」

「とぼけないでください。あなたのやっているマジック自体は、トリックを使えば一般的なマジシャンでも頑張れば再現できる範疇にある。しかし、問題なのはあなたがマジックに失敗した時だ。」

「失敗!?」


動揺して思わず裏声が出てしまった。いきなりのミスだ。しかし、この私がステージ上で失敗をしていたというのか。だとしたらそれはいつなのだろう、どんなマジックで失敗をした?


「まずあなたのマジックを初めて見た時、私は中学生だった。カードの背中を赤い花から青い海に変えたり、戻したりすることを繰り返すマジック。私はその頃それなりにマジックに詳しかったから、カードの背中が失敗してしまった時にどのような状態になり得るかはわかっているつもりだ。しかしあなたの持っていたカードの一枚は、赤と青のまだらになっていたはずだ。それを見て僕は貴女のマジックに夢中になった!あなたは全く別の原理でマジックを成功させているんだと!」


田中剣は興奮した調子で続けた。


「それほどの技術がありながら、あなたが大掛かりなマジックに挑戦しないことがずっと不思議だった!あなたのマジックは絶対に机の上で完結する!だから一度に見られる観客の人数に限りがある!それであなたのマジックショーは人気が出るにつれて稀少なものになった!だがそれだけじゃない!貴女は大人数向けの手品、いや、自分の手の届かない範囲にはトリックを仕掛けられないんだ!」

「わたしは少人数の観客が笑う姿をじっくりと見たいから机の上で完結するマジックを軸として技術を磨いてきた、確かにその通りではあるかもしれないけれど、それがタネも仕掛けもないという根拠にはならないはずよ。」

「いや、根拠ならあります。サイコハンドマイケルの後に一度だけ披露して音沙汰のない、コインの貫通マジックです。」

「ああ・・・私の初めての舞台のマジックね。私が本当に瓶の底からコインを直接魔法で貫通させた、あの舞台の・・・。」


参った、降参だ。私は笑うしかなかった。


「私は嘘つきなのよ。私は奇術師じゃない。魔術師。」


もう私のマジシャン人生も終わりだ。超能力者サイコハンド・マイケルの念動力のようには誤魔化せなかった。やはり奇術の補助に超能力を使う彼のように、私も魔法を補助として使わなければならなかったのだ。

そんな風に諦めきった笑顔を浮かべていた私に、田中剣は真剣な顔でこう言った。


「いいえ、あなたは嘘なんかついてないんですよ。」


意味が分からなかった。私は大勢の人を騙して・・・。


「いやみんな言ってますよ。これからやるマジックには、タネも仕掛けもないってね。いやぁ本当にタネも仕掛けもないって気づいたときは驚いたなあ!」


どうやら私の「マジシャン」人生はまだ続いていくらしかった。






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