第94話5月色の至福

5月病という感覚は分からない。


今迄の学生時代で経験がないからな。


その5月もぼちぼち終わる。


五宮ごのみやフレイユと大学通りを歩いてる。


空は雲行きが怪しい。


ギリギリ雨は大丈夫だろう。


彼女と一緒に過ごす時間は貴重である。


今日は珍しく塾もなく、一緒に帰るかと誘ったら笑顔で頷く。


笑顔の頷きに悲しそうな表情が見え隠れしていたのは気のせいか……。


大学通りを駅に向かって歩いていた。


お互い黙ってる。


五宮はハミングしてる。


沈黙が怖いとは思わない。


大人が沈黙を恐れることを知っていたので、意外だと思う。


間違いなく俺は彼女に恋している。


言葉にしなくても彼女が俺の中に沁みてきてる。


沈黙が怖いって?こんな至上の幸福感はないだろう。


彼女がハミングしてる曲が分かった。


「マイケル・ジャクソンの”I’ll Be There”か?」


五宮は振り向いて「よく分かったね?あんたが初めてよ」


彼女は右手で俺の左手を握る。


思ってたより小さな手だ。


俺は優しく握り返す。


赤いスイートピーは卒業だ。


鼓動は高鳴って、まるで初恋のように動揺してる。


彼女に悟られないようにするが、胸は益々ドキドキしてる。


彼女は“I’ll Be There”をハミングしてまた哀愁に満ちた表情をする。


“美人さんは何してても絵になるな”


前にも思ったことだ。


曇り空から少し太陽が覗く。


2020(R4)5/24(火)









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