第173話 刹那さんの彼氏さんめっちゃやり手ですね

「夢光統合パッケージ1号……」


 緊張した顔でそう呟いたのはあかりだった。いま俺の後ろには刹那とあかり、蒼井さん、内藤さんが緊張した面持ちで俺の作った基幹プログラムを見ている。


「えっと、このシステムはいろんなモジュールが合わさった形となっていて、財務、管理、販売、在庫、品質、人事という六つパートがあります。まあ、これを全部使う必要はなく、財務と販売、人事モジュールだけ使えばOKです。規模の大きい会社なら物足りない感じがしますけど、中小企業とか個人事業主なら財務状況や経営判断といった重要な意思決定において問題なく機能すると思います」


 と、俺はこの基幹システムの概要と使い方についてざっくり説明した。


「使い方自体は難しくありません、とりあえず財務から……」


 俺は3時間かけて説明した。3人は目を光らせながら集中して聞いてくれた。時にはメモを取り、時には質問をするなど、必死にこの夢光統合パッケージ1号の使い方を学ぼうと努力する姿勢を見ると、なんだか不思議な気分になる。


 刹那はさっきからずっと無言のまま俺と基幹システムを交互に見ながら思索に耽っている。


「まあ、大体こんな感じですね。でも、説明だけだとやっぱり分かりづらいんで、直接いじりながら勉強した方が早いと思います」


 久々に長く喋ったせいか、喉が乾いた。なので、テーブルの上にあるペットボトルを適当に手に取りうんくうんくと飲んでいると、内藤さんが感心したように口を開く。


「すごい…これを藤本さん一人でお作りになったんですか?」


「ぷぁ……そうですね。まあ、別に大したことじゃないんですけど」


「いいえ、大したことですよ」


 内藤さんは戦慄の表情で俺を褒めてくれた。あかりはというと、急に刹那に近寄って意味ありげな表情で何やら喋っている。


「刹那さんの彼氏さんめっちゃやり手ですね」


「ふえ?」


 刹那はいきなり奇声を上げて慌てふためく様子を呈した。


「かかか、彼氏だなんて…」

 

 刹那の顔はとっくに赤く染め上がっており、俺をチラチラ見ている。どうやらこの3人は誤解をしているようだな。


 3人とも小首を傾げていぶかしんでいるところを見て、俺はゆっくりと口を開いた。


「別に刹那と俺は付き合ってませんよ」


「え?」


「はあ?」


「うん?」


 三者三様という言葉があるように、3人とも異なる言葉を吐いた。ていうか、なんなのその反応?まるで想定外のことを言われたときの顔をしているんだけど?




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