第143話 お兄ちゃん!私とお姉ちゃんにこれ塗って!

 笑顔のゆきなちゃんをよそに、俺がオドオドしながら頭を上げると、西園寺刹那が腕を組んで俺をジロジロ見ている。


 ただでさえ胸が大きい上に、腕を組んでいるせいで、膨らみはより強調される。ていうか、これ目のやり場に困りますけど?


「私に対して、あんな風に言ったのは藤本さんが初めてです」


 西園寺刹那はあいも変わらず激おこぷんぷん丸だ。俺が適当に吐いた言葉が彼女を怒らせてしまった。しかし、この怒った顔は以前、俺に見せていた悲しみと怒りと諦念が混じっていた表情とは大違いだ。なんていうの?下手したらちょっと可愛いく思えてしまいそうな、そういう類のものだ。もともと西園寺刹那は可愛いけどね。


「まあ、なんだ。俺も色々とテンパってたっていうかなんていうか…」


「へえ、いつも死んだゾンビのような目をしているくせに、なんで戸惑う必要があるんですか?」


 頬を若干膨らませた西園寺刹那は問い詰めるような口調で俺に尋問する。


 ただのゾンビじゃなく死んだゾンビね。そんなに俺の目ってヤバいのか。まあ、自覚はあるけどね。


「いや、いきなり超絶美少女が露出多めの水着着て目の前に現れると誰でも戸惑うだろ」


 俺は自分の胸の前で手をブンブン振ってまくし立てるように反駁はんばくして見せた。すると、西園寺刹那は顔を真っ赤に染めて、視線を逸らす。そして、小さく動く唇。


「今日の藤本さんは、なんだか変です…」


 な、なんなんだこの反応?!こんなのやめて!ラノベ主人公に見せるはにかむ表情を俺に披露するのはもったいないでしょ?


 思考が停止寸前の状態に追い込まれているのを感じつつ、俺は首を左右に振って、急いで話題を逸らす。


「ああもう!レーザーシート敷いておいたから、適当に荷物おいといて、遊んでくれ」


「その前に上着を早く脱いでください!」


 な、なんで俺の上着に執着するの?確かにこの上着は俺のお気に入りだけど、西園寺が欲しがるような要素は全くこれっぽっちもないと思いますけど?


 でも、仕方あるまい。


 理由を求めてはなるまい。求めたらまた怒られてしまいそうだ。


 と、考えた俺は渋々上着を脱いだ。


「お…」


「ほぇ…」


 俺の白い肌をこの美人姉妹二人が凝視している姿が目に映った。


「あ、あまりジロジロ見るなよ…」


「藤本さん、それ私がさっき言った言葉ですよ」


「そ、そうか」


「はい」


 思い返してみたら、俺が上着を脱いだ姿を誰かに見せるのは、おそらく初めてではなかろうか。いつも虐めで傷だらけだった上半身は、時間の経過とともに、姿を消した。一箇所を除けば。


「お兄ちゃんの右胸の下に傷痕みたいなのはなに?」


 やっぱり第三者目線でもこの傷だけは目立ってしまうのか。


「別に大した傷じゃないよ。昔ちょっと転んだだけ」


「何か鋭い刃物に切られたみたいな感じがするけど」


「転んだ時、鋭い石ころみたいな物体があっただけだ。あの時は運が悪かったな」


「そうか」


「そうだ」


 しばらくの間、ゆきなちゃんと西園寺刹那は心配そうにこの傷痕を見つめていた。だが、やがて二人はお互いを見て優しく微笑む。それから、持ってきた荷物を俺が敷いたレーザーシートに放り投げた。それから、二人はガサゴソと音を立てながら何かを探している。やがて、ゆきなちゃんが目をキラキラさせて化粧品みたいなものを持ち上げながら俺に朗らかな声で話しかけてきた。


「お兄ちゃん!私とお姉ちゃんにこれ塗って!」


「ちょ、ゆきな!」


「塗れって…なにをだ?」


 俺が小首を傾げて続きをうながすと、ゆきなちゃんは目尻と広角を釣り上げて、なまめかしい声で返事する。


「日焼け止めだよ」


「マジか」








追記


 小説の更新が遅れてしまい大変申し訳ございません。体調不良によって、執筆ができませんでした。


 この小説・「臆病者だけど、命くらいかけるよ。」は、なにがあっても最後まで書くつもりです。


 なるべく毎日更新を目指しておりますが、体調不良や、予期せぬ出来事により、思い通りには進まないものですね。

 

 これからは、更新が遅れそうになると、きちんと追記で知らせるなどして対応していきます。


 いつも私の小説を読んでくださり本当にありがとうございます。誤字や脱字、表現の仕方など、まだ未熟なところがたくさんありますが、努力してもっと洗練された文章を書いて参ります。



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