第80話 爪先立ち
今日は書店で日向さんの出ている雑誌を隈なく確認する日です。
ファッション誌の表紙で格好良く表情をきめている日向さん。
格好良いなぁ…………
……うん、買おう。
それから、この雑誌は三ヶ月間日向さんの特設ページが掲載されている。
二冊買いたいけど、我慢我慢。
というわけで立ち読みです。
ふむふむ、今月は恋愛特集なんだ。
日向晴さんの恋愛観……
うん、気になるよね。
“日向晴さんがキュンとしてしまうポイントはどこですか?”
“キスをする時に
ふむふむ、踵……
あれ?そういえば私からキスをする時っていつも爪先立ちしてて……
“ずばり、好きなタイプは?”
“料理上手な頑張り屋さんですね”
…………これも買おう。
◇ ◇ ◇ ◇
「おかえり雫。買い物してたの?」
「は、はい……その、書店へ……」
買った本を咄嗟に後ろへ隠してしまう。
とりあえず、ただいまのキスを……
……どうしよう。すごく意識しちゃう。
「雫……?」
少しだけ、身体が震えてしまう。
爪先立ちをしてただいまのキスをする。
薄っすらと目を開くと、日向さんは私の足元を愛しそうな表情で見つめていた。
恥ずかしくて涙が溢れてしまいそうだったけれど、一瞬日向さんと目が合って……
優しく微笑んでくれたその甘い瞳に、力が抜けてしまう。
ストンと落ちる雑誌。
全てを理解した日向さんは、慈愛に満ちた微笑みで私を強く抱きしめた。
「ふふっ。それ、読んだの?」
「よ、読みました……」
「それね、流石に栞に怒られたっけ」
「……よろしかったんですか?」
「うん、好きな気持ちに嘘はつけないもの。誰かさんに……似ちゃったのかな」
いたずらっぽく笑う日向さんが愛しい。
口下手な私だから……どうやったら、この気持ちが伝わるのだろうか。
「さて、嘘がつけない料理上手な頑張り屋さんとは……誰でしょう?」
言葉じゃ伝えきれないから、いつだって行動してきた。
それでも伝えきれないほど、あなたが好き。
いつもどおり、爪先立ち。
踵を浮かして届く愛しい場所に、想いを乗せる。
「……キュンってしましたか?」
「…………うん。ずっとしてる」
私には素敵で眩しすぎるあなただけど……そんなあなたに、背伸びをすると近づけるこの瞬間が私も大好きです。
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