第78話 繋がる私達の想い出
今日は日向さんからのお誘いで、大学の最寄り駅付近をお散歩しています。
出会って間もない頃を思いだし、一人ニヤけと戦っている。
「この道も懐かしいね。あれ? ここのコンビニ潰れちゃったんだ。居酒屋になってる」
「一緒に行ったお店ですし、なんだか寂しいですね……」
私の肩をそっと抱き寄せて、頭をポンポンと優しく叩いて下さる。
擦り寄って、その優しさに甘える私。
「たった一年しか経ってないけど、少しずつ変わってるんだね」
「わ、私達は……どうなんでしょうか……」
なんでこんなに恥ずかしいこと聞いちゃったんだろう。
顔を真っ赤にして俯く私の顎を指で掬い上げ、優しいキスをしてもらう。
「変わったこともあるし、変わらないこともあるけど……」
そう言いながら、日向さんは人目を憚らず私を抱きしめた。
おでこにキスをして、抱きしめる力はさらに強くなる。
「もーっと、ラブラブになったよね」
愛くるしい笑顔と言葉に、私の何かが弾けてしまう。
ねだるように目を閉じると、日向さんはその想いに応えてくれた。
変わらなくて良かったことは、相変わらず、おまちの人は他人に無関心だということ。
◇ ◇ ◇ ◇
フワフワしたまま、お散歩中。
どこへ向かっているのか、次第に理解する。
「あのコンビニが存在したことは私達が覚えているし、思い出もちゃんと残ってる。居酒屋になっても、昔ここにはコンビニがあったんだ……なんて、肴になるかもしれないよね。形あるものはいつか終わりが来るけど、想いは決してなくならないと思うの。そうやって、姿を変えて繋がっていくんだね」
言葉尻、日向さんは足を止めた。
そこは、何回も何百回も見た景色。
私の住んでいたアパート。
明かりがついているので、違う住人がいるのだろう。
「ふふっ、おいで」
私の手を引き部屋の前まで来ると、日向さんは呼び鈴を鳴らした。
わけも分からず手を強く握りしめる私の頬を、指で優しく撫でて下さった。
「はーい……わぁ!! 雫、いらっしゃい!! 入って入って!」
「あ、彩さん? どうしてここに……」
「ふふっ、言ったでしょ? 繋がってるって」
◇ ◇ ◇ ◇
私の部屋だった場所。
ベッドもカーテンも、私が使っていた物がそのまま置いてある。
違う所は、テレビがあることくらい。
「私達の家を買ったときに、もう少しこの場所は取っておこうと思ってたの。私達の大切な場所だから。彩になら、任せてもいいかなって思ったんだけど……どうかな?」
「どうもなにも私もう住んでるんだけど?」
少しずつ、状況を飲み込む。
無事私と同じ大学に合格した彩さん。
部屋探しで悩んでいると以前聞いてはいたけれど……
日向さんと出会ってからの一年は、目まぐるしく変わっていく一年だった。
この部屋から始まって、日向さんのマンションに行き……
実家に軟禁されて、マンションを売ったお金で私達の家を買った。
こうして思い出すだけでも…………
「なんだか嬉しそうだね。どしたの?」
「ふふっ。笑っちゃうくらい……素敵な一年だったなと思ってました」
深々と、この部屋にお辞儀をする。
ニ年間お世話になった、私の部屋。
あなたと初めて同じ時を過ごした、大切な場所。
そして、彩さんに向かってお辞儀。
この部屋の新しいお話は、彩さんにバトンタッチ。
「彩さん、一年しかありませんが……同じ大学生活、宜しくお願いします。素敵な一年にしましょうね」
「する! メッチャする!! ねぇ、今日泊まってってよ! ピザパして一緒にお風呂入って一緒に寝よ? あ、晴姉は帰っていいよ」
「どうせ大学で会うんだから今日は一緒に帰るよ」
「雫ぅ……お願ぃ」
彩さんは私の手を引っ張り、日向さんは離すまいと私をガッチリ抱きしめる。
そんな景色に思わず笑ってしまうほど、私は幸せ者。
新しい年度。幸せいっぱいな一年の始まりです。
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