第46話 天敵ちゃんご来訪
「ふぇっ!? 本当にカエルの卵だったんですか!?」
「そうそう、タピオカガエルの卵を使うんだってさ」
道中、彩が彼女を騙して楽しんでいる。
ネットで調べるとマルメタピオカガエルと出てくるので、彩はそれを彼女に見せ完全に信じ込ませている。
「ふぇぇ……神秘的な飲み物なんですね」
空いた容器にお辞儀をする彼女。
その姿を見て、彩はバツの悪そうな顔をしている。
どこまでも真っ直ぐな彼女だから、一緒にいるとこちらまで背すじが伸びてしまう。
「ところで……今日はどうして雫さんのご実家に行くのかな?」
何も言わずに連れ出してしまったけれど、なんて言おうか……
彼女のプライベートな事は言い辛いし、それに何故か今日行かなければ行けない気がして……
「今日は母の命日なんです。だから日向さんはわざわざ……」
「……じゃあ、お母様が呼んでくれたのかな。彩、ちゃんと挨拶しましょうね」
「雫の事は日向家に任せなさーい」
「ふふっ、雫さんのご実家に着いてから言いなさい?」
「わ、分かってるし?」
大好きな人が、大切な人に受け入れられて認められる幸せ。
照れくさそうに、でも嬉しそうに俯く彼女。
“あなたはひとりじゃないでしょ?”
そうだよね、私はひとりじゃないよね。
ありがとう、母さん、彩。
◇ ◇ ◇
高速道路から降りてから一時間を超え、景色はほぼ山一色になってきた。
「うわぁ……こんな所に人が住んでるんだ……あの集落が雫の村?」
「いえ、あと山を二つ越えます」
「うへぇ……人より猪の方が多そう……」
◇ ◇ ◇
目的地に近づくにつれ、自然と体が強張っていく。
まぁ……良い思い出では無いからね。
隣では随分と前から目が泳ぎ、縮こまった彼女がいる。
そんな彼女の手を取り、指を絡め合う。
「今日は一人じゃないから。ね?」
そう伝えると、絡まる指は力強さを増した。
今必要な事は言葉では無いらしい。
車の速度を緩め、私達の顔がゆっくりと近づいていく。
その間から、彩が顔を出してきた。
おかげで私達が彩の頬にキスをする格好になってしまう。
「ふぇっ!!?」
「彩!!」
「ヘヘっ、二人分の幸せゲットだぜ♪」
無邪気に笑い、私にアクセルペダルを踏むよう催促をして前を見つめる。
左頬を撫で微笑むその顔は、子供のように無垢で、大人のように淑やか。
とびきりの可愛い顔は、私へ向けられたモノではない。
「雫、私の事好き?」
「はい、好きですよ」
「私……可愛い?」
「ふふっ、とっても可愛いですよ?」
「へへっ……そっか♪」
気が付けば彼女の実家の前に到着し、彩は勢い良く車から出ていった。
止める間もなく呼び鈴を鳴らし、豪快に扉を開ける。
「おーっす。彩ちゃんだよー」
「な、なんだ貴様は!!?」
急いで玄関へ向かうと、仁王立ちする彩と困惑している雫父がいた。
「へぇ、ここが雫の実家かぁ。この人雫のお父さん?」
「で、出て行け!! 警察を呼ぶぞ!!」
「田舎の警察って馬に乗ってるんでしょ?」
「馬鹿にしとるのか!!?」
今回の主役は、どうやら私達ではないみたい。
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