第35話 気が付かない所でのあなたの愛
今日はおまちのレコード店に、日向さんの妹御である彩さんと来てます。
お目当ては勿論──
「……晴姉のサインなんて腐る程貰えるしょ? なんでわざわざサイン会に来んのよ」
日向さんのカバーアルバム(意味はよく分からない)発売に合わせて、こちらでサイン会を行うんです。
朝から並んだので、なんとか定員の中に入る事が出来ました。
「そういえばさ、私この前のテスト全教科80点以上だったよ。凄くない?」
「ふふっ、彩さんは頑張り屋さんですからね」
ここひと月、日向さんのご実家へ頻繁にお邪魔させて頂き、彩さんの勉強をお手伝いしていた。
私と同じ大学へと進みたいという、とても嬉しい目標へ向け、彩さんは猛勉強をされている。
「だからこの後デートしよ? フォトジェニックなアイスドリンク飲めるトコが近くにあるんだって」
「ふぉとじぇ…………じぇじぇ?」
「いいでしょ? ね?」
おねだりをする時の雰囲気が日向さんに似ていて、つい甘くなってしまう。
日向さんに、「彩を甘やかすな」って口酸っぱく言われているのに……
「いいですよ。こうして朝から並んで下さってますし。その代わり、日向さんの許可を得てからですよ?」
「わーい♪ あ、始まったみたいだよ」
列が動き始める。
男女問わず人気者の日向さん。
こんなに沢山の人に慕われているなんて、日向さんは本当に凄い人なんだな……
◇ ◇ ◇
と言う訳で私達の番になりました。
なんだか緊張してしまう。
私達を見ても表情一つ変えない日向さんは本当にプロフェッショナルである。
対照的に、私は耳まで紅くなっている。
「こんにちは。緊張しなくてもいいですからね」
普段とは違う声色。
可愛い……
「雫、時間無いんだからとっととサイン貰っちゃいなよ。早くデートしよ」
「そ、そうですね……こちらにお願いします」
店内で購入したCDのケースにサインをする日向さん。
名前の隣には可愛い猫ちゃんの顔も書いてくれた。
「……その髪型、可愛いですね。ご自分で?」
「は、はい。その……好きな人が好きな髪なので」
「ふふっ、そうなんだ」
「公の場で合法的にイチャつかないでくんない?」
写真を撮り終えると係の人に促され、私達の番はもう終わり。
それでも最後に一言だけ。
「あ、あの! いつも応援してます……誰よりも……」
日向さんは何か言おうとしたけれど、次の人達で見えなくなってしまった。
◇ ◇ ◇
約束通り、彩さんとおまちデートをしています。
お洒落すぎるお店で、色のついた飲み物を飲む。
開放的な店内で、視線が気になってしまう。
私はこの場所に上手く溶け込めているのだろうか……
彩さんは嬉しそうにスマホで写真を撮っている。
……前に日向さんが言っていた。
なんだっけ……蝿?とかなんとか。
「そういえばさ、なんでわざわざサイン会になんか来たの?」
「……日向さんは家に仕事を持ち込みません。どんなに忙しくても、私の前では優しく微笑んでくれます。夜中に起きてしまった事があって……その時日向さんはリビングでとても真剣な顔で台本を読んでました。私には見せたことの無い表情で…………無理をさせてしまっているという自覚はあります。でも、それが日向さんの望まれている事なら私もそれを守りたいんです。ですから、今日はファンとして日向晴さんに会いに来たかったんです」
「へぇ……二人共頑固だ事。ね、晴姉」
振り返るとそこにはいつも通り優しく微笑んでいる日向さんがいた。
直視できないよ……
「ちょっと席移そっか。あっちの角の方空いてるよ」
促されて角の席へと座る。
私と店内を遮るような形で日向さんが……
………………いつもそうだった。
いつだって日向さんは私の事を気遣ってくれていた。
家にいても、お出かけしていても、私は守られている。大切にされている。
私はいつだって──
「どしたの?」
「……愛されているなって、思ってました」
「うん、愛してる」
人々の死角になるその場所で、おでこに優しく口づけをして貰う。
この声も表情も、私しか知らないいつもの日向さん。
「なにコレ? 家でやってくんない?」
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