第33話 際限の無いこの想い
「雫、髪伸びたね」
日向さんの一言で気がついたけれど、肩よりも大分下になってきた。
最後に切ったのは確か……
「……もう出会ってから半年経つんですね」
半年前の私に、今の私の事を言ったらどんな反応をするだろうか。
信じられなくて、変な声を出してるのかな。
今、半年後の私から言われても、きっと変な声を出すのだろう。
「では近々切ってきますね」
「……ねぇ、せっかくだからちょっとアレンジしてみる?」
「ふぇ?」
◇
いつも日向さんが使っている化粧台の前に座る。
鏡越しに目が合うので、どこに視線を向ければ良いのか分からない。
「そんなに緊張しないで? 恥ずかしかったら目を瞑っててね」
素直に目を瞑ると、頬に柔らかい感触がした。
恥ずかしくてそのまま俯いてしまう。
優しく髪を梳かしてもらうと、肩の力が抜けてきた。
日向さんの柔らかい手と、優しい櫛使いがとても──
「気持ちいい? ふふっ、なんだか猫みたい」
色々と見透かされていて、顔が熱くなる。
でも、好きな人に触れてもらえる事は幸せで心地よいモノ。
小さく頷いて、また身を委ねる。
◇
「うん、出来た。雫、目を開けて」
恐る恐る目を開ける。
「どう? 可愛いでしょ?」
編まれた髪は後ろで束ねられている。
可愛くて綺麗で、とてもお洒落。
まるで私じゃないみたいで、何度も角度を変えて鏡を見つめる。
こんな私でも、少しだけ……輝いて見える。
「へ、変ではありませんか?」
「照れちゃうくらい凄く似合ってるよ」
そう言った日向さんの顔は、少しだけ赤らんでいた気がした。
少しでも……喜んで貰えたのだろうか。
「……この髪の毛の作り方、教えて頂けますか?」
「……切らないの?」
「…………もっと好きになって欲しいんです」
「っ…………これ以上好きになったら変になっちゃうよ?」
おでこ同士を擦り合わせて、鼻先が触れ合う。
「駄目ですか……?」
「……もっと狂わせてよ」
毎日毎日、気持ちが積み重なっていくから……昨日の好きよりも、今日の好きという気持ちの方が暖かい。
それでも、明日の私に負けない位、今日の私は日向さんが好き。
なんだか矛盾してるけど、際限の無いこの想いに理屈は通らない。
「そんなに可愛い顔して……どしたのかにゃ?」
「…………にゃんでもにゃいです……にゃ」
「もう……どうなっても知らないよ?」
半年前の私に言ったら、卒倒するんだろうな。
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