第19話 意味の無いことの意味
私の名前は雨谷雫。
田舎のそのまた田舎から上京して2年、初めて出来た友達は、誰もが知る(私は知らなかった)人気女優で、両想いで恋人で……
幸せな日々をすごしてます。
それから、最近家を買いました。
大学から少し離れてしまったけれど、緑が残る素敵な場所。
庭も広くて、木々が沢山植えてある。
とある夫婦が建てたけれど、引き渡し前に離婚。
昼ドラ以上のドロドロ離婚だと日向さんは言っていたけれど、昼ドラってなんだろう……
最近はテレビを見る事が増えた。
日向さんが出る番組が始まると自動でテレビがつくようになっている。
私といる時とはまた違った顔をしていて、胸の奥がざわつく時があって……私は結構我儘な人間なんだろうなと思う。
そんな私を見透かして、日向さんは抱きしめてくれる。
誰もいない私達だけの空間、思わず甘えてしまう。
「妬いてたの?」
「よく分からないんですけど……その…………全部欲しいと思ってしまって……」
「嬉しい。全部雫のモノだよ。テレビと同じ顔してあげよっか」
普段と違う雰囲気になる日向さん。
女優さんなんだなと、改めて思うと同時にその可愛さに顔が熱くなる。
堪らず俯くと、それすらも見透かしていたのか私の口には日向さんの指が触れていた。
「噛んで」
言われた通りに優しく甘噛をする。
恥ずかしくて、顔が焼けてしまいそうなくらい熱い。
「ダメ。もっと強く」
「で、でも……」
「お願い」
日向さんを傷つけるような真似は絶対に嫌だけれど、本人に言われてしまったので徐々に強く噛んでいく。
それは歯型がクッキリと残る程。
「見て、雫の歯型。へぇ、こんなふうになってるんだ」
「ごめんなさい……痛いですよね?冷やさないと……」
「ううん、雫を感じたかったから痛くていい」
愛しそうに指を見つめる。
その景色に、胸の奥が疼く。
「わ、私の指も噛んでください……日向さんと一緒がいいので……」
私を見て、優しく微笑みながら噛んでくれた。
この表情は、テレビでは見た事がない……多分、私だけに見せてくれる顔。
痛くて薄っすらと涙が溢れる。
でも、これは幸せな痛み。
大切な人と共有出来る感覚は、何よりも愛しくて尊いモノ。
「……あ、もうこんな時間だ。雫、今日は大学行かなきゃでしょ?」
「わっ!?い、急がないと── 」
新居に住むと決まってから、原動機付自転車の免許を取った。
時間や人混み、様々な事を考えた結果コレが一番良いと日向さんが言ってくれたので、一夜漬けで次の日取りに行った。
「では行ってきます」
「うん、気をつけてね。忘れ物してるよ」
「えっ?なんだろう……」
鞄の中を漁っていると、日向さんが目を瞑り頬を突き出している。
なんだか懐かしい気持ちになり、そのまま頬に頬を重ねた。
「ふふっ、何してるの?」
「……何でしょうか?」
目と目が合い、口と口が重なった。
幸せな一日の始まり。
「行ってらっしゃい」
「はい、行ってきます♪」
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