第16話 晴好雨季


「ねぇねぇ、ここなんかいいんじゃない?」


「良いですね。素敵だと思います」


 私達の新居探し。

 日向さんは目を輝かせて探しているんだど、私はそんな日向さんを見て目を輝かせている。


「もー、さっきからそればっかりじゃない?」


「……一緒なら、どこにでもいけますから」


「……そうだね。目、瞑って── 」


 おでこが重なると、時間が止まる。


 口が触れ合うと、心が融けていく。


「ねぇ、ちょっとデートしよっか」 


 花の雨、傘をさして歩く。

 深めにさした相合傘。

 どんなに距離が近くても、どんなに見つめ合っていても、他の人から私達の顔は見えない。


 肩を寄せ合って、信号待ちで止まるたびに日向さんがキスをしてくれる。


「雨の日って好き。傘をさせば、街の風景に溶け込めるから」


 伝えたい事はたくさんあるのに……私は言葉にするのが苦手。

 だから強く手を握る。


 そんな時、日向さんは私の考えてる事がすぐに分かるみたいで、いつも優しく微笑んでくれる。

 

「でもね、最近はもっと好きな理由が出来たんだ」


「どんな理由ですか?」


「……好きな人の名前が入ってるから。だから好き」


 傘に隠れて、キスを繰り返す。

 鼓動の速さは、雨音で聞こえない。


「……今すごく可愛い顔してるよ。何かあったの?」


「……私と同じなんだなと思っていました。私は……晴れた日が好きなんです。お日様、晴天。青い空を見ていると、大好きな人を思い描けて……心が温かくなるんです」


 自然と信号の色を気にしてしまう。

 赤信号を待っている自分が恥ずかしくて、顔が熱くなる。


「じゃあ……私達は無敵だね」


「無敵……」


「晴れても雨が降っても嬉しくて……曇りになったら次の天気が待ち遠しい……ふふっ、最高だよね」


 心の底がフワフワとしている。

 言いたいのに、言えない気持ち。

 この心に収まる言葉が見つからない。

 日向さんなら、上手く表現出来るのかな……


「あの……変な事を言ってもいいですか?」


「うん、なぁに?」


「…………私が今探している言葉って……分かりますか?」


 我ながらおかしい質問。

 でも、日向さんは真剣な眼差しで私を見つめてくれる。

 それから、優しく微笑んでくれた。


「うん、分かるよ」


「ほ、本当ですか!?どんな言葉でしょうか……」


 雨脚は強くなっていくのに、何箇所からか日の光が差している。

 自惚れていいのなら、それは私達の為にあるようで……

 街の人皆が空を見上げる中、私達はお互いを見つめ合う。

 その瞬間、私の中で探していた言葉が心に流れてくる。それは─── 


「……運命、じゃない?ふふっ、その顔は……合ってるんでしょ?」


 見つめる事しか出来なくて、それでも応えてくれる日向さんが愛しい。

 彼女という存在が、堪らなく尊い。

 この場で抱きしめたいけれど、私にはまだそこまで勇気がない。


「……帰ろっか。部屋に着いたらギュッってしようね。それから─── 」


 日向さんからの耳打ち。

 ほんの少しだけ理解したその言葉のせいで、アパートに着くまでの記憶はなかった。


 こんな事を考えるなんて、思いもしなかった。

 不謹慎だけど、私はこの人の為なら……


 心の奥底から依存してしまっている。


 私は日向さん無しではもう生きていけない。

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