第4話 私の好きな人は私の事が好きな人


「雫、いい加減出てきたら?」


「だ、だめです!!」


 かれこれ1時間はトイレに籠城している。

 夢だと思っていた事が現実で……

 私は日向さんになんてはしたない姿を見せてしまったのだろう。

 穴があったら入りたかったのでトイレに入った訳である。


「何がそんなに気になるの?可愛かったよ?」


「か、可愛くありません……私なんか………」


 取り敢えず落ち着こう。

 恥ずかしいけど先程の出来事を思い出す。

 あれ……?でもどうして……


 “雫、大好きだよ”


 あれはどういう意味なんだろう。

 キ、キスをされて、あんな素敵な言葉を貰って……

 もしかしてあれって……

 ……ううん、落ち着いて雫。そんな筈ないよ。

 都会の子はスキンシップが強いのかもしれない。

 そう考えれば辻褄が合う。


 友達として……


「あ、あの……一つお聞きしてもよろしいですか……?」


「ん?なに?」


「す、す、好きと言って頂いた意味なんですが……その……と、友達として……ですよね?」


「……開けてくれたら答えるよ」


 その返しはずるいです……

 開けるしかなくなったので、小銭一枚分の隙間を開けた。


「あ、開けました……」


「顔が見たいんだけどにゃぁ」


 小説一冊分程の隙間を開ける。

 これが精一杯。

 

「み、見えますか?」


「うん、可愛い顔がチラチラ見えるよ」


 その言葉に戸惑ってしまい、勢いよく扉を締めて鍵を掛けてしまう。


「や、やめてください……私なんか……可愛くないんです……」


 胸が苦しく顔が火照っている。

 私はどうしたらいいんだろう……


「……この扉がさ、雫と私の距離感だったら……雫は今私に対して鍵をかけてる訳だよね。私はもっと近づきたいな」


 カチャッ


「わ、分かりません……どうして私なんかと…………」


「……雫、顔を見せて。それから……私の顔をちゃんと見て」


 この言葉は無視してはいけない気がした。

 ただ現実から逃げているだけで、日向さんと向き合っていないから。

 日向さんが……好きだから。


 ドアを開け、静かに日向さんを見た。


 いつもより顔が赤くて……目が少しだけ潤んでいる。

 それでも私の事を見つめてくれている。


「私もさ、恥ずかしいんだ。好きな人もキスも初めてだから。でもさ……仕方ないよ、好きなんだし。私もこんな気持ち初めて。ねぇ、どうしたらいいと思う?」


「そっ、えっ、あっ…………」


「もー……言葉になってないよ?……雫の答え、聞かせてよ」


 そう言って日向さんは目を瞑った。

 ど、どういう意味なんだろう。

 狼狽えていると、日向さんが片目を開けてくすりと微笑んだ。


「可愛いね、雫は。こうやったら分かるでしょ?」


 今度は頬をこちらに向けている。

 頬に……頬に何かするんだよね……


 意を決して、日向さんへと近づく。


 突き出している頬に、私の頬を重ねる。


「……なにやってるの?」


「えっ?その…………なんでしょう?」


「あははっ。もー……教えてあげる。頬を出して」


 言われた通り頬を出す。

 差し出した頬には柔らかくて温かい感触。

 一瞬にして、思考が止まる。


「分かった?今度は雫の番だよ」


 頭の中がフワフワして、何も考えられない……ううん、日向さんの事しか頭にない。


 私の番って事は私がキス……するのかな。

 ど、どこにすればいいんだろう。


 唇……だ、だめだよ!?そんな大胆な事出来ないよ…………


 私なりに頑張って最大限勇気を出した結果、手の甲に優しく口をつける事に成功した。

 今の私の精一杯。


「ご、ごめんなさい。これが限界で……ほ、本当はその……したいんですけど…………まだ気持ちの準備といいますか……その……」


「凄く嬉しいよ。雫のペースでいいから。ね?」


 そう言って私の手の甲にキスをして微笑む日向さん。

 可愛いなぁ……


「じゃあお互いの気持ちも確認出来たし、今日はお休みだし……デート、しよっか?」


「デート…………ふぇっ!?」


 聞き慣れない言葉に共鳴するように、手の甲が疼いている。

 お互いの気持ち……

 も、もしやこれは……りょ、両想いというヤツなのでは!?

 そうなのかな?そうなのかな?


 聞きたいけど……恥ずかしくて聞けない。


 えー……嬉しい……


「じゃ、支度して行きますか!」 


「ふぇ!?ど、どこにですか?」


「言ったでしょ?デート♪」

 

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