新章 再び、異世界へ

131.異世界帰りの召喚勇者

「それでは、お先に失礼します」


「あっ、梅屋君。時間なのに呼び止めちゃって悪いね。来月のシフトの相談なんだけど……」


 三年前。異世界から元の世界、日本へと戻って来た俺は……高校は中退扱い。今は学校へ行かず、アルバイトを掛け持ちして家計を支えている。


 三年間の空白期間があるせいで、マトモな所へ就職するのも難しいだろう。異世界へ行っていたとはいえ、この日本では『失踪していた』というだけの扱いになのだから。


 唯葉はというと……中学校は義務教育であるからなのか、簡単に復学できた。三年経った今、高校へと通っている。三年遅れではあるが、どうやら上手くやっているようだ。


 唯葉の学費も稼ぐべく、こうして働きづめの毎日を送っていた。


 元・二年四組。あの異世界を生き残った他のクラスメートたちも、俺は最近、あまり連絡も取らなくなってしまったが……きっと元気にしているだろう。



 ***



 唯葉ももう高校生。年齢で言えば、三年のブランクがあるので大学生だ。そのせいか、自然に兄妹同士の口数も少なくなっていった。仕方ないと言えば仕方ないのかもしれないが、少し寂しいような気もする。


「お疲れ様、お兄ちゃん。ご飯できてるよ」


「……ああ。ありがとう」


 家事は学校を終えた唯葉がほとんどをこなしてくれている。本当、頭が上がらない。

 ずっと昔からも、異世界にいた頃も、唯葉はいつもしっかり者だった。


「……お風呂、もう沸いてるからね」


「分かった。いつもありがとう、唯葉」


「お兄ちゃんは仕事で忙しいでしょ? 気にしないで」


 ……そういえば、今頃どうなっているんだろうな。良くも悪くも、今の俺たちを作ってくれた、は。


 半強制的に召喚されて、それからも嫌なこと、大変なこと、色々あったけど……案外、悪くもない。そう思った、は。


 お世話になったキリハ村だったり、ちょっとした因縁さえあったドルニア王国。運命の歯車が動く『会議』が行われたクリディア。

 一度は廃墟と化してしまったが、復興計画はどんどん進んでいた。今頃は、これまで以上に栄えているのかもしれない。


 知恵の原石による『革命』がまだ未完成だったグランスレイフ。あれから三年も経ったのだから、魔物たちにも知性が芽生え、さらに発展していたりするのだろうか。


 お世話になったみんなは、元気しているだろうか。魔族も人間も、両種族手を取りあう平和な世の中になったのだから、きっと元気にしているに違いない。



 俺たちがあの異世界にいたのは三年と少し。そんな短い期間だったけど、あの世界での出来事一つひとつが懐かしく思えるほどに――あの世界での出来事は、俺たちにとっては大きな物だったんだなと、この日本へと戻ってきてから、強く実感する。

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