83.崩壊したリエメラにて

 クリディアとドルニアの中間にある、そこそこ大きな街、リエメラ。一度、俺と唯委も泊ったことがある街だ。もしかしたらとも思ったが……その期待も虚しく、リエメラの街もクリディアと同様に、ボロボロの廃墟と化していた。


 もしかしたら何かが分かるかもしれないので、少しだけ探索する事にした。


 それにしても、ここまでの惨状を果たして、ヒューディアルの人間だけで作り出せるのだろうか。クリディアのような大きな街に加えて、リエメラまでその全域が破壊されている。


 そんなこと、普通の人間だけで起こせるとは思えない。何かしらの強い力を持った者がこの大陸にいる。そう考えるしか無さそうだ。


 ……と、リエメラの街を歩いていると、一軒だけ不自然に損壊のない、大きな建物があった。あの建物に、俺と唯葉は見覚えがあった。


「前に泊まった宿か。何故ここだけ綺麗に残っているんだ?」


 何かありそうだと思い、近づくと……宿から物音や話し声が聞こえた。


 四人はこっそりと宿の影に隠れ、その会話を盗み聞く。


『リディエ共和国までの道は「空間接続」で構築済です。今すぐにでも行けますが』


『そんなに急ぐ必要あるワケぇ? 冒険者が集まるとか言ってたアソコだって、結局あの程度だったしぃ』


『はァ、めんど臭ェ。どっちでもいいからさっさと決めろ』


『会議に参加すらしてない脳筋バカが言うじゃねえか』


『ちょっと、喧嘩は良くないよ……?』


『みんなイライラしてるんだよ、しゃーないじゃん?』


『俺はさっさと終わらせてしまった方が良いと思うが。お前らは帰りたく無いのか?』


『そりゃあー帰ってポテチ食ってゲームして、うちでダラダラしてたいけどさー』


『おいリーダー、どうすんだ?』


『……分かった。一時間後にリディエ共和国へ突撃。これでどうだ。異論のある奴は手を挙げろ』


 ――。


『じゃあ、一時間後に那智のスキルでリディエまで向かう。着いたら好きに暴れろ。……くれぐれも前の時のように、「帰る方法を吐き出させる」という目的を忘れるなよ』



 ……悪寒の走るような会話を隠れて聞いていた俺たちは、知りたかった情報も、それ以上のものも聞けた訳で……一度、その場を離れる。


 仮に見つかれば戦いになるだろうが、相手の強さは未知数だ。こんな惨状を起こした相手に、事前情報も無しに戦いを挑むなんて、無謀そのものだ。


 

 プレシャの車へと走りながら、聞いた情報を整理する。


 まず、ヒューディアルの東側にある『リディエ共和国』に、少なくとも誰かがいるらしく、一時間後に、そこを正体不明の彼らが攻撃を仕掛けようとしていること。


 そして、彼らは恐らく俺たちと同じ、日本からやってきた人間であること。


 そして、彼らは俺たちを超える、強力なスキルを持っていると思われること。


 この惨状からして、Sランクのスキルを持った人間がいるのは確実だろう。もしくは、それ以上かもしれない。


「『空間接続』……。聞いた感じなら、テレポートとかそんな感じのスキル……なのかな」


 もしそうだとすれば今すぐに動いたとしても、先を越される可能性が高い。


「……ここからリディエ共和国まで、車でどれくらいで着けるんだ?」


「我はこの大陸の事はよく知らん。しかし……一時間で行くのは流石に無理だろう」


「間に合わない……か」


 それでも、歩みを止める訳にもいかない。出来るだけ早く、リディエ共和国へと向かわなければならない。リエメラやクリディアのような、手遅れの状況になる前に。


 車の元へと到着した俺たちは、すかさず乗り込む。


「飛ばすぞ。シートベルトはしておけッ!」


 魔王プレシャの叫びと共に、四人を乗せた車は爆音を立てて勢い良く走り出した。目的地はリディエ共和国。

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