第四章 戦争・人類対魔族
49.開戦
あの会議から二週間後。『その時』は突然やってきた。
クリディアの街は、とても慌ただしくなっていた。それもそのはず……。
『クリディア北の海岸に、魔族が乗っていると思われる船団が確認されました。住民の皆さんは絶対に近づかないように。そして、ヒューディアル防衛作戦の参加者は直ちにギルドへ集まってください』
といった内容を、ギルド職員の人たちが街を走り回り、大声で叫び続けていたからだ。
「戦争か……」
「二ヶ月前は、なんとか追い返す事はできたみたいだけど……それでも、たくさんの犠牲があったみたい。今回も……」
「させないさ。その為に俺たちはこの世界に連れて来られたんだしな。俺たち以外にも召喚勇者はたくさんいるんだ。大丈夫だ、きっと」
「そうだね。行こう、お兄ちゃん」
俺と唯葉はしっかりと支度を済ませてから宿を出ると、ギルドへと向けて歩き出した。
***
ギルドの中は、街中よりもさらに慌ただしかった。
それも、これから普通に戦ったところでその圧倒的な戦力差で勝てるはずのない、強大な相手と戦うのだから、雰囲気だって当然明るい訳がない。ぴりぴりとした緊張感だけが、その場を支配していた。
そんな冒険者たちの姿の中には、見覚えのある顔ぶれがあった。
「……水橋さんたちのパーティも参加するんだな」
「ええ。この世界で生きていくには稼がなくちゃならないし、ここで一発、一気に稼いでおこうと思って。それに、元々はこの戦争のために私たちは呼び出されたんでしょう?」
「相手は魔人だ。死ぬかもしれないんだぞ」
二度も魔人と戦い、その度に死と隣り合わせの戦闘を繰り広げてきた。この身をもって、魔人という敵の強さは知っている。
「もちろんそれは理解しているわ。それでも、私たちだって日々強くなっている。決して、梅屋君には届かないとしても、一歩一歩、確実に強くなっている。……だから大丈夫。私たちだって、死ぬ気は無いから」
そう言い放つ明日香の目は、俺なんかよりもずっと真剣で、強い意志が宿っていた。
「俺はこのスキルのせいでみんなとは一緒に戦えないけど、お互い頑張ろう」
俺のスキル、味方弱化は、それが誰であっても、一緒に戦えばステータスが下がってしまう。一緒に戦えるのは唯葉くらいだ。……本当は、唯葉も戦わせたくないのだが。
そんな唯葉も、久しぶりに会うクラスメートの所にいたらしい。
そこには、金髪シスターの姿は無かったが……城の兵士や、明日香の元へと行かなかったクラスメート、そして唯葉のクラスメートたちの姿もあった。
そして、このギルドには他の冒険者たちも集結している訳で、ギルドの中はぎゅうぎゅう詰めだ。まるでお祭りの人混みみたいだ。
そんな騒がしいギルド中に、一人の力強い、通った声が響き渡る。
「注目ッ! 今回の防衛作戦に参加するみんな。俺はギルドマスターのウィッツ。今回の作戦の舵取りを任されている。決して楽な戦いではないが、人類を、この大陸を守る為、一人一人頑張ってほしい。……人類の命運を掛けた大一番。ここで魔族との決着をつけようッ」
「「「おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」」」
その場に漂っていた緊張感を一気に吹き飛ばし、まるで大陸中に響き渡るような叫びと共に、人類対魔族の戦いが今、幕を開けようとしていた。
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