44.異世界で生きていく

「うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっ!」


 神崎あかねと、緑色のドラゴンの双方が、お互いにまっすぐ向かい合う。


 そして、ギリギリまで近づいた神崎は、右手に握る魔剣レイフォロアを一撃、振るう!


 ドラゴンは、自身の強さに相当自信があったのか、それを避けず、その頭で抑えて迎え撃つ。――ガチィっ!! 


「……嘘っ、こんなに強い剣なのに、止められたっ!」


 そのまま、ドラゴンに飛ばされそうになるが、なんとか神崎も踏ん張る。そして、後ろから見ていた私は、真剣に狙いを定め……、


「——皮膚がダメなら、眼球を狙うッ!」


 ——パンッ! 放たれた一発の銃弾は、そのままドラゴンの赤い眼球に向けて飛んでいく。


 ドラゴンは、慌てて目をつむろうとするが、銃弾の速さを前に、間に合わない。


「——グギャアアアァァァァッ!!」


 ドラゴンの悲鳴と共に……その剣を押さえつける力も、一瞬弱まる。その隙を見逃さず、神崎は剣にもっと力を込める。


「はあああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 その剣は、ドラゴンの頭を二つに切り裂いた。そして、ドラゴンは……バタリと倒れ、そのまま消えていく。


「……ふう、良かった……ありがとう、神崎さん」


「ナイス援護だったよ、水橋さん! こちらこそありがとうっ」


 騒ぎに駆け付けた他のパーティのみんなも、その様子を見届けると、ドラゴンを打ち倒した私たちに向けて歓声が上がる。



 ***



「かなり集まったわね。これだけあれば、結構なお金になるんじゃないかしら」


 それぞれのグループでひとつずつ持っていた、雑貨屋で買っておいた大きめのカゴが全て薬草で満杯になった。


 これだけの量を集めるのも、持ち帰るのも、並の冒険者パーティではできないはず。初めての冒険でここまで集められれば上出来だろう。


「――『物質錬成』ッ!」


 私は行きと同じく、物質錬成で大型のバスを作りだす。


 運ぶのが大変な量で、普通に歩いて運ぶとしたら骨が折れるが……物質錬成と、現代知識さえあれば解決だ。


 薬草の入ったカゴと私たちを乗せた、この異世界には絶対に似合わないような大きなバスは、この広い草原の中を出発する。



 ***



「……本当にあんな所まで行ってきたんですか? 馬車も持っていなさそうですし、どうやってこんなに早く行って帰ってきたんですか……?」


 ギルドの職員が、驚いたように聞いてくる。それも無理はない。朝にこの街を出て、帰ってきたのはなんと昼前なのだ。


 それも、いま目の前で驚いている職員に薬草の群生地を尋ねて、そこに行くと告げていたので、思わぬ時間の帰還にこんな反応をされてしまった。


「……これが薬草です。買い取りをお願いします」


「……こんなにたくさん。確かに全て薬草のようですが……一体どうやって運んだのですか。とりあえず、計算してきますので一度預かりますね」


 そう言うと、職員は薬草がいっぱいに詰まったカゴを一つ持って、奥の方へと行ってしまう。


「ちょっと取りすぎたんじゃない……? すごい驚いてたよ、あの人……」


「多すぎて困るって事はないと思うわよ。これでひとまず、お金には余裕ができると良いんだけど……」


「そうだねー。私たち、十一人もいるから、たくさん稼がないとやっていけないもんね」


 まずはお金を稼いで、安定した生活をできるようになる。この異世界から帰るにしても、そうじゃないにしても、まずは自力で生きていけるようにならないといけない。その一歩を確かに私たちは踏み出したのだった。




 しばらく待って、五つのカゴの薬草を全て集計し終えた職員が戻ってくると、


「これが今回の買い取り額となります。大銀貨3枚、小銀貨4枚ですが、よろしいでしょうか?」


「はい、ありがとうございます」


 大銀貨3枚。大体、あの金髪シスターの財布に入っていた額と同じくらいか。これだけあれば、しばらくは安定した生活を送れるはず。


「……そうだった」


 私は、ふとギルドの方に話しておこうと思った事があったのを思い出す。……それはもちろん、私たちが薬草を集めている間に起こった、あの一件の事。

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