38.竜人・イルエレ
下へと続く階段を降りて行くと、やがて大きな部屋へと繋がった。
そこには一人の人影と、その奥には黒く禍々しいオーラを放つ、大きな『ドア』があった。
ドアは閉じられていて、どこかの部屋に繋がっているという訳でもなく、壁際でもない部屋の中心に、ドンと置かれている。
とにかく、あれが決して放っておいて良いものではない事は確実だろう。
その部屋を覗く俺たちの気配に気づいたのか、その人影はこちらを向く。
その姿は……緑色の肌に銀髪で、堅そうな鱗によって全身を覆われている。魔人……なのだろうか?
それ以外は少し体格が良いだけで、やはり人間と変わりない。胸があるので多分女性……なのだろうか。鱗が服の代わりになっているようだ。
そして、その女性は強気な声で言い放つ。
「人間がこんな所まで来れるなんて。あの数の魔物を人間が突破出来るとは思えない。それも、気配的にアナタたち二人だけでなんてね」
「今、ここに俺たちがいるのが事実だろ。……お前は魔人か? こんな所で何をしているんだ」
……ロクなことをしていないのは明らかだ。あんな嫌な予感しかしない、見るからに怪しいドアがある時点でだ。
「魔人……ね。半分正解ってトコかしら? アタシは魔人の中でもさらに上位に君臨する『竜人』、イルエレ」
「竜人……? 魔人よりも強いの?」
「そうねぇ。アタシより先にやられたあのアホ……アニロアよりは余裕で強いわよ。あんなのと比べられちゃ困るわね」
――アニロア。キリハ村でのあの事件を起こした張本人で、かなりの強さだったあの魔人。それよりもさらに強いと言う『竜人』。
……しかし、こちらだって負けてないはずだ。あの時よりもさらに、ずっと強くなっている。
「で、こんな所で何をしているんだ?」
「それをアナタたちに言って、アタシにメリットなんて無いんだけど? 力尽くで聞き出すのが当然よねぇ?」
「よし、唯葉は魔法で後ろから攻撃だ」
「わかったよ、お兄ちゃん」
その言葉を聞いた俺は、そう言うと――シュンッ! と、一瞬にして竜人、イルエレの元へと突撃し、剣を振るう。
――ガガガガギギガガガガガッ!! という金属が擦り減っていくようなら嫌な音を鳴らしながら、イルエレは右手から生み出した紫色の魔法陣で俺の攻撃を受け止める。
「――『サンダー・シュート』ッ!」
そんなイルエレに、さらに一撃。一本の雷が一直線に彼女の体へと襲いかかる。
それを直で受け止めたイルエレは、鱗によって電流を軽減させたものの、完全にとは行かずに、彼女の魔法陣に込める力が一瞬抜けて――そのまま後ろへと弾き飛ばされる。
壁へと思いっきり叩きつけられた彼女は、さっきの強気な態度を完全に捨て去ってしまい、
「あの、確かに力尽くでって言ったのはアタシなんだけど、そんな不意打ちしてまで本気で来なくても……」
そんな言葉を聞いた俺たちは、そこまで本気でもなかったんだけどな……と思いつつも、
「じゃあ、何をしていたのか、教えてくれるか?」
「分かった、言うから! 一回、攻撃はやめてくれるかしら?」
……なんというか、あまりにもあっさり過ぎて拍子抜けだ。本当にこれでいいのだろうか?
「アタシはね、『ヒューディアル』と、『グランスレイフ』を繋ぐ『次元の扉』を構築していたのよ」
「グランス……レイフ?」
「魔族が住む大陸……だっけ?」
俺は初めて聞いたが、唯葉は知っていたらしい。大陸の名前なんてあまり気にする事も無かったし。
「ええ、次元の扉さえ構築してしまえば、アタシたち魔族はこのヒューディアルに自由に行き来ができる。そのための準備をしてたってワケ」
やはりか……。このダンジョンの話を聞いた時からそういう予感はしていたが、見事に的中したな。
「そうか。ならその扉を壊してしまえば解決って事だな」
「そうだね、お兄ちゃん」
俺たちが扉に向けて攻撃を繰り出そうとしたその瞬間。イルエレが突然――
「ふふ、あはははははッ! そんな事はさせないわよ。大体、アタシが何でわざわざアナタたちにこんな話をしたんだと思う? ――それはね」
彼女は笑い、そして叫ぶ。
「全てを焼き尽くす――『緋炎解放』ッ!」
――ゴオオオッ!! 衝撃波を振り撒きながら、彼女の身体が
「俺の後ろに隠れろ唯葉! ――『マジック・コンバータ』、《守》ッ!」
「お兄ちゃん、大丈夫っ!?」
俺と一緒に戦っている唯葉は、全部のステータスが半減している。
それに素のステータスでも、守に魔力を極振りした俺は唯葉よりも高い。俺の防御力なら、唯葉を護る盾になれる。
衝撃波と共にやって来る強烈な熱風も、俺が全て受け止めて――やっと衝撃波が収まると、目の前には。
緑だった全身が、完全なる真紅に染まった――真っ赤なイルエレの姿があった。
「『緋炎解放』には大量の魔力が必要だったからねえ。適当に時間を稼がせてもらったわ。竜人のアタシの力、その真骨頂を見せてあげるッ」
竜人と名乗った彼女の、真の姿を前にして、俺は再び、あのアニロアを前にした時のような緊張感に襲われる。
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