いるだけ迷惑な最強勇者 〜ハズレスキル『味方弱化』が邪魔だと追い出されたので、この異世界で好き勝手させてもらいます!〜
束音ツムギ
第一章 ハズレスキル・味方弱化
1.ハズレスキル『味方弱化』
「これより、スキル鑑定を執り行います。勇者の皆様はこの石版の前に全員、一列に並んでください」
見た目、三十代前半くらいだろうか? 金髪で、黒い修道服を纏ったシスターの女性が、感情さえこもっていないような機械的な声で言うと、俺を含めた三十人くらいの人々が一斉に指示に従いざわざわと動き出す。
俺たち、『二年四組』のみんなは、彼女の指示に従うしかなかった。何故なら。
俺たち二年四組の面々、その周りを取り囲む、武器防具を装備した大勢の兵士がこちらを睨みつけ――
……金髪シスターの隣に立つ、その屈強な見た目からして、彼らとはまた別格だと思われる、周りを囲む兵士たちとは一回り体格も持つオーラも違う、敵に回してしまえばどうなるかも分からない、大きな男兵士。
そしてなにより――
――どうやら、ここは俺たちの全く知らない、いわゆる『異世界』であるらしいからだ。
ついさっきまで、いつもの教室で数学の授業を受けていたはずが、いつの間にか寝落ちてしまい……目覚めるとそこは、さっきまでいた教室ではなく、明らかに現代のものではないであろう、中世とかそのあたりの時代にあったような石造りの建物の中だったのだ。
それから全員が目覚めたと思えば、何の説明もなくこんなところに連れてこられて今に至る。……意味がわからない。なんだ『スキル』って。ゲームかよ。
だが、この金髪シスターも冗談を言っているようには見えないし、状況が状況だ。不思議な出来事が起こりすぎて、ついに頭がパンクしてしまいそうだ。
しかし、それらをいちいち理解している時間さえも与えてくれない。俺は二年四組のみんなに紛れるように歩き、言われた通りに部屋の奥に置かれた、タブレット端末くらいの大きさをした石版の前から延びる行列へと並ぶ。
俺はもちろん後ろの方へと並んだ。一体何をされるのかもわかったもんじゃないし、最初の方なんて絶対にお断りだ。
「それでは前から順に一人ずつ、石版に触れてください」
無機質な女の声が、部屋の中に響き渡る。一番前にいたのは……俺とは全くの正反対な性格をした、クラスの中でも騒がしい人気者タイプの茶髪男子、
「では、石版に手を置いてください」
「はいよーっと」
金髪シスターに対して、工藤は適当な調子で返事をする。この状況でも変わらずにこんな態度を取れるのは素直にすごいと思う。彼のようなコミュ力があれば、俺もクラスの中での立ち位置は全く別のものになっていたのだろうか、なんて思う。
そんな工藤は、石版に触れると――シュウウウンッ!! という音と共に、石版が金色の光を放ちだした。
「「「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉ……っ!」」」
何もわからない二年四組以外、シスターや兵士の人々が驚きの声を上げる。……あっ、こんな展開、どこかの漫画か何かで見たことがある気がするぞ。この流れはもしかしなくても、
「凄いですっ! 『超速飛行』……Sランクスキルですよ!?」
「何いッ!? もうSランクが現れるとは。一度の召喚で一人でもいればいい方なんだがな……」
予想通りの展開だ。この場を進めている金髪シスターと一回り大きな兵士の男がビビり倒している。声にあんなに感情の無かったあの金髪シスターがこんなにも驚いている。
……やっぱりこういう展開は、ああいう主役っぽい人間が持っていくのが相場なのだろう。
『Sランク』というのが厳密にはよくわからないが、驚かれているということはきっと大層な事なのだろう。
「よっしゃー! よく分からんけど俺スゲーんじゃね!?」
大声で後ろのクラスメートにドヤ顔で見せつける工藤。それを皮切りに、だんまりとしていた他のクラスメートたちもぼそぼそと喋り始める。
誰かが話し始めれば、続々と話し始める。人とはそういう生き物なのだ。
……俺はあいにく、物静かで友達なんて数えるほどしかいないし、その数少ない友達も今この場所にはいないので関係のない事なのだが。どうも、このクラスの人とは馬が合わないみたいだ。
「それでは次の方、石版に触れてください」
金髪のシスターに言われ、次に前に出てきたのは……担任の先生だ。数学を担当している、小太りのおっさんなのだが……話が面白くて人気の先生である。
今はこの訳のわからない状況のせいで無言だが、普段は気さくで人気な先生なのだ。普段は。
その先生が石版に手を触れると……石版は青色に発光した。
さっきのような驚きや歓声は起こらず、淡々と文章を読み上げるようにシスターは、
「Bランク、『気配察知』ですね」
「ふむ。次だ」
なんというか、対応が雑すぎて可哀想に感じてしまう。……そんな先生を皮切りに、ここからはトントン拍子でスキル鑑定とやらが進められていった。
「Aランク『衝撃吸収』です」
「ふむ……」
「Bランク『成長促進』」
「なるほど……」
「Bランク『正確射撃』」
「Aランク『精神感応』」
「Bランク『絶対潜伏』」
……
…………
………………
そして。ついに俺の番が回ってきた。その頃には最初の静寂が嘘だったかのように、すっかり場は賑やかになっていて。
「ははっ、あの根暗野郎の事だしどーせ大したスキルじゃなさそーだな! やっぱ俺、前々からなんかの力が眠ってそうとか思ってたんだよなー! まさかこのSランクの事だったとはなー!」
「ってかAランクとBランクしかいないからいい加減面白いランク出てくれよ。飽きてきたなー」
……ざわざわ。ざわざわ。
普段の教室のような雰囲気に、うるさいなあ……と思いながらも俺はそっと石版に手を触れると……。
――シュウウウンッ! という音と共に、石版が……いままでに見たことのない、黒色へと変色してしまった。
「…………」
「…………」
静まり返る金髪シスターと一回り大きい兵士の男に対して、クラスメートの奴らはというと――
「はははははは! なんか黒いぜありゃ! 根暗はこんなところでも暗いんだな! だはははははは!」
「……笑いすぎじゃね? ふ、ふふ……」
「あんまり笑っちゃかわいそーでしょー? やめてあげなよー! あははははっ!」
何故か笑い物にされてしまっている。これがSSランクみたいな、お前らより強いスキルとかだったらその時は覚悟しておけよ。
「……貴方。名前は?」
金髪のシスターはしばらく黙った後、こちらに問いかけてくる。
「……
「そう……」
金髪シスターは、そう言うと隣に立つ戦士の男と何やら小さな声で話し始める。
ゴニョ、ゴニョ……と、二人は話し終えると、体格の良い戦士の男が俺に向かって口を開く。
「梅屋君。キミのスキルはFランク――『味方弱化』だ。簡単に説明するなら、梅屋君がここにいるだけで周りのみんなが弱くなってしまう。そんなスキルだ」
……は?
「もういいわアレス、私が単刀直入に言う。……あなたの存在はみんなの『邪魔』になるの。だから、ここから出て行ってもらえるかしら」
……冗談、だよな?
「さあ、早くコイツを城の外へでも放り投げて頂戴。コイツは用済みよ」
……そんな事ってあるのか? これまで、気配を感じ取れたりといったプラスの効果を持つスキルしかなかったのに。……俺になった途端にこれなのか?
俺たちを取り囲んでいた兵士たちは、その金髪のシスターの声と共に、一斉に俺のもとへと向かってくる。
――ダッダッダッダッダッ!!
たくさんの足音が、俺を捕まえようと近づいてきて……もうダメだと思ったその瞬間。
「――待ってください」
唐突に、俺の後ろの方から一人の女子の声が飛んでくる。
「……キミは?」
「私はこのクラスの学級委員、
その声の正体は、二年四組の学級委員を務め、こんな無口な俺に対しても、分け隔てなく接してくれる女子、水橋明日香。
長くて綺麗な黒髪に、整った顔立ちを併せ持つ、スタイル抜群で文句なしの美少女だと評判だ。
そんな彼女は、こんなにも体格の良くて強そうな戦士にも、金髪のシスターにも、大勢の兵士に対しても怯む事なく、言い放つ。
「私たちにはあなた方が何をしているのかサッパリわかりません。しかし、勝手にこんな場所に呼び出しておいて、弱いから出て行けなんて都合の良すぎる話じゃないですか?」
その言葉を聞いて、兵士たちの動きが止まる。
……こんなに地味で目立たない俺に対しても、こう声をかけてくれる。
俺はこの武装した兵士に囲まれたり、分からない事だらけであることも相まって……思わず涙が溢れそうになってしまうのを、なんとかグッと抑える。
しかしら彼女のそんな言葉を聞いても金髪シスターは態度を一切変えずに、
「彼と一緒に戦えば、彼以外の戦力が大幅に落ちます。……落ちた分の戦力を貴方が全て補ってくれると?」
「……それは……」
ここでは、発言の正しさが正義じゃないらしい。……有利な立場か、不利な立場なのか。これだけが、この場を支配するルールだと。そう決定付けるかのように、金髪シスターの声は響く。
そんな俺に追い打ちをかけるように。
「そーだそーだ! 俺のSランクがお前なんかに台無しにされちゃウンザリだからな!」
そう声を上げたのは、超速飛行とやらのSランクスキルでベタ褒めされていた、工藤茂春。……ちょっと評価されたからってすっかり調子に乗っているようだ。
特に仲は良くないし、何なら嫌いな相手ではあるのだが――それでも一応同級生である彼にまでそう言われ、俺は踏ん切りが付いた。
「工藤君? あなたはクラスメートよりもこんな知らない人達の方が大事だって言うの?」
「……もういい」
その瞬間、俺の中で何かが吹っ切れる。手を差し伸べてくれていた学級委員、水橋の言葉を止め、静かに言い放つ。
「……もういいんだ。そんなに邪魔なら俺から出ていってやる。お前らみたいなクズと一緒に行動なんてこっちから願い下げだ! 出口はどっちだ? 案内しろ」
「梅屋ッ……! 貴様、何という口をッ!」
体格の良い戦士の男が、俺にそう怒鳴るが知った事か。
「落ち着きなさいアレス。自分の立場を弁えていて結構じゃない。いいわ、私が彼を案内してくるから、アレスは他の勇者たちにでも説明してて?」
俺の周りを取り囲んでいた兵士たちがそれぞれ一歩ずつ後退すると、カツカツと足音を立てながら金髪のシスターがこちらに歩いてくる。
「ついて来なさい。その威勢に免じて、外までは案内してあげる。そこから先は自由になさい。……まあ、所詮は召喚者。スキルはいわゆるゴミみたいだし、この世界の事なんて何も知らないのだから、何も出来ずに野垂れ死ぬか、せいぜい魔物のエサで終わりでしょうけど」
嘲笑うかのように、金髪のシスターはこちらを見て言い放つと、ふっ……と鼻で笑い、石造りの部屋の外へと向かって歩き出した。
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