ハンディキャップ
雨野瀧
1
「お姉ちゃん、ちょっと相談なんだけど。
お父さんに殴られるにはどうしたらいいかな」
えりかが真剣な目で私を見つめている。
「どうしたの?急に」
「あのね、殴られたいの。体にアザができれば尚更いい。火傷でも骨折でもなんでもいいのよ」
妹の言っていることがちょっと訳がわからないのはいつものことだ。人体実験でもするのだろうか。10歳下の妹は小学2年生、変なことをしてみたいお年頃だろうか。
「パソコンでも壊せばいいんじゃない?」
私が小さい頃、小学校に行くちょっと前の頃だった。お父さんのパソコンを勝手にいじって遊んでいた時、大きな声と、耐え難い痛みが飛んできたのを今でも覚えている。あの時の私が何をやらかしてしまったのかは今でも知らないけれど、あれはいちばん記憶に鮮明だ。
逆に言えば殴らせるための手っ取り早い方法。今も有効とは思えないけど。
「私、この家の子やめたいの」
そうか、反抗期というやつか。私はそんなこと思ったこともないから分からないけど、こんなに愛情深いお父さんお母さんがいるのはラッキーな方だと思うのにな。
「どうしてやめたいの?」
「いい加減、おこづかいが欲しいし、みんながやってるゲームと同じのがしたいの!」
そういうことか。うちはお金がないから、おこづかい制ではなく、両親と話し合っての請求制だ。ゲームも、母親のガラケーと家のパソコンに入っているデフォルトのゲームしかない。だから、確かに使えるお金に関して自由度が低い。私は今はアルバイトをして自分の分を養っているし、小中とも自転車を乗り回したり公園に行って遊ぶ方だったから、あまりお金やモノのことで悩んだことはなかったけれど。
「はるなちゃんは、去年のプール授業で先生に傷を見られてから少しして施設で暮らすようになったんだけど、おこづかいはもらえるしゲームも新しいものいっぱい揃ってるんだってさ!」
はるなちゃん、というのは以前からよく妹の話に出てきていた友達だ。難しい言葉や漢字をたくさん知っていて、テストはいつも100点なんだとか。長いこと虐待を受けて育ったらしく、今は施設へ。最初聞いた時は私も会ったこともないのにショックだった。
「だから私も、お父さんに殴られれば施設に行けるんでしょ?」
本気でそんなことを思っているのならと思うと我が妹の発想が怖い。如何にして私は宥めるべきだろうか。
「えりか、はるなちゃんは塾に行ってる?」
「行ってない、私もうちの塾一緒に入ろうって誘ったことあるけど、ダメだったらしいよ。もともと優秀だから必要ないんじゃない?」
「確かにそうかもねー」
「じゃあ、はるなちゃんには思ったことをそのまま相談できるお姉ちゃんはいるのかな」
「……。」
「はるなちゃんは、ママ友の会話の中心になるのかな」
「……」
幼心へ私の意図が伝わったような様子が見られた。
そうだよ、あなたも、はるなちゃんも、どっちもどっち。
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