本場のサッカーで高校無双? ~え、普通にマルセイユルーレットしただけですけど?

ぽんぽん

プロローグ

 突然ですが、私、県立北高校二年生の市瀬姫夏いちのせひめかはサッカー部のマネージャーをやっています。私の父が元Jリーガーで、幼い頃からサッカーと触れ合う機会が多くて気が付いたらファンになっちゃっていまして。それで中学高校とサッカー部のマネージャーをやっているわけです。

 さてさて、私の自己紹介も済んだところで問題です、デデン! じゃなかった、本題です。本日四月七日は県立北高の入学式です。各委員会と部がくじ引きをして出席する在校生代表を決めるのですが、運悪くサッカー部は出席することになってしまいました。本当だったら今日は休みだったのに……。全く、去年の春の新人戦と言い部長は本当にくじ運が悪いですからねえ。まさか初戦で前回の東北王者を引き当てるとは思ってもいませんでした。とまあ、部長の運の悪さを嘆いていても仕方がないですけど。それに入学式の雰囲気は嫌いじゃないですしね。

 区長の式辞が終わって次はええっと、そう、担任の先生が一人ずつ名前を呼んでいくあれです。点呼? で良いのかな、いやでも点呼だとなんかちょっと軍隊っぽい感じがするし……とまあとにかく、新入生たちの名前が一人ずつ呼ばれていきます。皆緊張しているみたいで返事の声が少し固いです。ふふふ、私も去年はあんな感じだったのかな? 一組、二組と続いて次は三組です。

「一年三組、市瀬夏希」

 はい! っと可愛らしい返事が聞こえてきます。さすがは私の妹です。そんな妹に私は心の中で拍手を送ります。

 その後も一人一人名前が呼ばれます。三組も終わって、四組、そして五組です。

来栖凛くるすりん

「はい!」

 珍しい名字ですね。

子玉正喜こだままさき

「はい」

 これまた珍しい名字です。

坂逆緖熟さかさかおうれ

 ??? さか、さか、おうれ?

 驚くことに何故か自然と当て字をしていますが、サカサカ・オーレの方がしっくり来ますけど。唐突に聞こえたあまりにも奇妙な名前に私は完全に虚を突かれました。と言うか、名前を呼んだ先生もちょっぴり噛んでいましたし。

 いえ、仮に百歩譲ってこの当て字通りだとして、坂逆何て名字がこの現代日本に存在するんでしょうか? 例えば日本津々浦々どこの学校のクラスだとしても同姓同名がいない限り名前順の先頭に来るだろう亜さんだって結局は小説の創作人物に過ぎませんし。昨今問題になっているキラキラネームをはじめ、その気になれば戸籍を弄って珍妙な名前に変えることはできますが、名字の場合は身分を隠さなければいけない理由がある、例えば証人保護プログラム(日本にあるのかは知りませんが)とか、DVをする家族から身を隠すためだとかそういう例外でもない限りまず出来ません。

 坂逆、サカサカ、サッカー部のマネージャーを務めさせて頂いている私からしますと安直に選手が二頭身のサッカーゲームの略称かななんて思っちゃいますけど……。あれ、でもなぜでしょう、どうしてだか口の中でゆっくり名前を反芻していると、何かしっくり来るものがあります。坂逆、坂逆、坂逆、前にもこの名字を聞いて同じようなことを考えたような気が……。

「一同、起立!」

 とりとめもなくそんなことを考えていると、脳内に司会進行を務める副校長先生の声が割って入ってきます。私は慌てて立ち上がりましたが、結局坂逆くんのことはそのまま忘れてしまったのでした。

 

 坂逆、緖熟、どこかで聞いたことがあると思うんですけどねえ。

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