第4話 ワインエンジェル
「そう言えばあなた、飛べるのよね」
見上げながら言う大人の香澄ちゃん。
「でもいまなら、わたしでもできるわ!」
言い放つのと一緒に背中から翼を出した。
真っ赤だけど天使みたいな、大きな翼。
羽ばたかせて飛ぶと、大人の香澄ちゃんは
「フフ、どう? 白衣の天使ならぬ、
「……」
どうと言われても、答えるのに困るわね。
そうですね、としか言いようがない。
それに、この大人の香澄ちゃん、目が据わってる。
酔っぱらっているみたいに。
?
酔っぱらっている?
でも、お酒を飲んでいる感じではなかったし、違うとすれば球体を持っていることくらい。
球体……。
え、待ってもしかして、チカラに酔っている?
そう言えば聖名夜ちゃん、言ってた。
異質な力の影響を受けると精神が乱れるって。
ほむらちゃんや聖名夜ちゃんは上位の術者だから、球体の影響を受けていないんだろう。
ユキちゃんたちは思念体で、球体が核になったみたいだから、元の力があったわけじゃない。
乱される力がないのと、復讐の気持ちが強いからその影響がなかったんだ。
でも香澄ちゃんは違う。
身体は人間だ。
それに、能力があるだけで訓練されているわけじゃなから、まともに影響を受けているんだわ。
「さあ……、逃がさないわよ……」
息が荒くなってる。
この酔っ払いさん、どうする聖名夜ちゃん。
「……」
正直、聖名夜ちゃんなら大人の香澄ちゃんを倒すことはできると思う。
確かに激しい攻撃ではあるけど、それ以上の戦いを私は知っている。
ただ、大人の香澄ちゃんを倒してしまうと、アイドルの香澄ちゃんにも影響が出ると思う。
拘束したりする方法もあるけど、選択肢はまだ他にある。
──だから。
「fog」
「!?」
驚く大人の香澄ちゃん。
聖名夜ちゃんは魔法で霧を発生させた。
それは特製の濃い霧で、大人の香澄ちゃんを中心に半径十メートルくらいに広がって、その姿を完全に飲み込んだ。
まあ、こっちも飲み込まれて見えないけどね。
そうやって視界を奪っている間に、聖名夜ちゃんは行動する。
「さすが……、全然、見えないわね……」
興奮したまま息の荒い大人の香澄ちゃん。
「でも忘れてない?
その声と同時に、霧の中から赤い包帯が飛び出し、私の周囲に巻きついていく。
「フフ……、捕まえたわ……」
大人の香澄ちゃんがニヤッとする顔が想像できるわね。
アイドルの香澄ちゃんと同じく、ミイラみたいにぐるぐる巻きにできたと喜んでいるんでしょうけど──。
「は……」
その包帯は一瞬で氷結し、パーンと弾け飛ぶ。
同時に私は病院の屋上へ吸い寄せられるように移動する。
「ちょっと待ちなさい」
ゴン!
追いかけようとして氷の壁にぶつかる大人の香澄ちゃん。
「つう……」
痛がりながらも上に飛んで、霧から脱出した。
「そこまでよ」
屋上に立って
「な?……」
声のする方を見て驚く大人の香澄ちゃん。
そこには包帯から解放されたアイドルの香澄ちゃんがいた。
霧で隠れた後、聖名夜ちゃんは魔法で出した水で私を包み、屋上へ向かって解呪したんだ。
聖名夜ちゃんの魔法は言葉にすれば発動するもの。
それは空中に文字を書いてもできるし、時限発動も可能。
つまり、大人の香澄ちゃんはまんまと聖名夜ちゃんの作戦にひっかかたというわけね。
「くっ……」
苛立ちを隠せない大人の香澄ちゃんはこちらを睨みつける。
それに構わず、アイドルの香澄ちゃんは右手の平を広げると、そこに球体が現れた。
大人の香澄ちゃんが持っていたはずの球体。
香澄ちゃん同士なら移動できるみたい。
「
言いながら球体を差し出すアイドルの香澄ちゃん。
「香澄さん……」
「うん……」
その真剣な眼差しを見て、聖名夜ちゃんは静かに球体を受け取った。
瞬間、大人の香澄ちゃんから現れていた真っ赤な翼が消えた。
滞空させるものがなくなって落っこちていく赤いナース。
「ち……」
大人の香澄ちゃんは落下しながら身体を霧に変えて移動、私たちの前に現れた。
「なんで渡しちゃうのよ香澄。それがあれば多くの人を元気づけられるのに。一人より大勢を助けた方がいいでしょう!」
アイドルの香澄ちゃんの肩を掴み叫ぶ大人の香澄ちゃん。
だけど、アイドルの香澄ちゃんは動じず真っ直ぐに目を見る。
「手の届かない遠くの人を助けるより、目の前の人を助けよう」
「!……」
「そう決めて、
「でも、だったら──」
「目の前の人」
言いながら、アイドルの香澄ちゃんは聖名夜ちゃんの手を見た。
そこには球体になっている私。
「まずはこの子から助けなきゃ」
「……」
「大丈夫。元に戻るだけ。歌なら、また歌えるよ」
大人の香澄ちゃんを抱きしめて言うアイドルの香澄ちゃん。
「……そうね」
納得した顔で、大人の香澄ちゃんも抱きしめ返した。
すると二人は淡い光を出してお互いを包み込んだ。
ほんの一瞬だったけど、何かを振り切った、そんな気がした。
──そして、そこには一人の女性看護師が現れた。
薄いピンクの看護服を着た、人間、堀北香澄が。
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