序開き

➀ 夜空

   初夏。遠くに眉月。呼子笛が響く。


② 江戸の町筋(夜)

   ──やや俯瞰で。

   暗闇の中、ひとり江戸の町筋を真っ直

   ぐ走って来る男児A(お勝坊)。前髪、

   武家の着物姿だが、はっきり見えない。

   呼子の音。


③ 闇の中

   バッと現れる数個の御用提灯。


④ 商家・屋根の上(夜)

平蔵「(十手を突きつけて)観念しろ! キ

 ツネ!」

   さっと振り返る女怪盗(キツネ)。そ

   の顔には稲荷の面。さっとT.Bして、

   全身。白いくノ一装束姿、夜風に棚引

   いている長い銀髪。片膝をついて屈ん

   でいる。


⑤ 同・表(夜)

   ──真横からの視点で。

   梯子、捕方の手によって次々と商家に

   立てかけられていく。


⑥ 同・屋根の上(夜)

   ──俯瞰で。   

   屋根の下に辰(下っ引き)。見上げて、

辰 「(十手を突きつけて)やいやいキツネ

 ! 年貢の納め時だぜ!」

   と、その後ろに、梯子をのぼって行く捕

   方達の姿。T.Bして、平蔵(岡っ引き)。

   きりっと見得を切って、

平蔵「今夜こそおめェのその素顔、きっちり拝

 ませて貰おォかッ!」

    ×    ×    ×

   ──真上からの俯瞰で。

   キツネを中心にして取り囲んでいる捕

──────────────────────

   方達。一斉に「御用!」と六尺棒を突

   きつける。


⑦ 同・表(夜)

   ふと気づく捕方A。


⑧ 江戸の町筋(夜)

   暗い江戸の町筋。遠くに、木製の車輪

   が走って来る音。


⑨ 商家・表(夜)

   捕方A、辰に手招きし乍ら、

捕方A「(町筋を見乍ら慌てて)き、来たッ

 !」

   辰、捕方Aに振り返る。と、


⑩ 江戸の町筋(夜)

   力強い筆文字で『超早馬ちょうはやうま」と書かれた

   ゴム動力の木製自転車(超早馬)が、

   砂塵を巻き上げて走っている。


⑪ 商家・表(夜)

   辰、ギョッとして後退って、

辰 「(町筋を凝視し乍ら)お、親分!」


⑫ 江戸の町筋(夜)

   大きな竹筒(手作りバズーカ砲)を背

   負って超早馬に乗っている主税ちから(同心)。

   超早馬、ガタガタ揺れて怪しい走行。

   主税、踵でブレーキをかける 。巻き上

   がる砂塵。


⑬ 商家・屋根の上(夜)

   ──俯瞰で。

辰 「(叫んで)逃げろーッ!」

   と、慌てて梯子をのぼる辰。各々おのおの梯子を

   のぼったり四散する捕方集団。そこに突

   っ込んで来る主税。

    ×    ×    ×

   ──仰角で。

──────────────────────

   衝撃と同時に、梯子にしがみついたま

   ま倒れてくる辰。

辰「わぁあぁああぁぁーッ!」


⑭ 同・表(夜)

   ──仰角で。

平蔵「 辰ーッ!」

   と、軒に乗り出して、ギョッとする。

    ×    ×    ×

   ──やや仰角で。

   主税、竹筒をバズーカ砲の様に構えて

   いる。と、

主税「御用!(と発砲) 」


⑮ 闇の中

   バッと広がる投網。


⑯ 夜空

   三尺玉の花火が揚がる。


⑰ 商家・屋根の上(夜)

   ──やや仰角で。

   夜空に消えて行く花火を見ているキツ

   ネ(後ろ姿)。足元に漂う煙。

    ×    ×    ×

   ──やや俯瞰で。

   花火を見上げているキツネ。その肩越

   しに屋根の下。濛々とたち込める煙。

   大勢の咳。夜風に煙が晴れていく。と、

   主税。尻餅をついて、煙を払っている。

   煤塗れで咳止まらず。


⑱ 同・表(夜)

   煤塗れの辰、主税に迫って、

辰 「あっし等を仏にする気ですかいッ!」

主税「 (へらっと辰に)あれ~。投網が飛び

 出すからくりだったンだけどな~」

   ──やや俯瞰で。 

   ふと、主税の股に落ちる稲荷の面。

    ×    ×    ×

──────────────────────

   ──仰角で。

   屋根の上にキツネ。片手を差し出し、

   立ち上がって見下ろしている。素顔だ

   が、影になってはっきりしない。


⑲ 同・屋根の上(夜)

   くすっと笑うキツネ。色っぽい唇。

   身を翻すキツネに合わせて、ゆっくり

   PUN。豊かな胸元、色気漂う肢体。揺

   らめく銀髪。

   キツネ、さっと吸い込まれる様に闇に

   消える。


⑳ 同・表(夜)

   ──やや仰角で。

   紅顔の主税と辰。呆然と見上げている。

    ×    ×    ×

   咳払い(平蔵)にはっとする主税と辰。

   所々破れて焦げた投網を被っている煤

   塗れの平蔵。二人の前に立って、十手

   で掌を打っている。据わった目。

主税「 (平蔵に)あ~……。ちょーっ……と、

 目測を誤ってしまいました」

   平蔵、バシッと十手で掌を打って、

平蔵「今日という今日は勘弁ならねェ! こ

 の平蔵、亡き旦那に代わってその性根、叩

 き直してくれる!」

   慌てて立ち上がる主税。

平蔵「待ちやがれ、このどら息子! (捕方

 達に )てめェ等! ぼさぼさしてねェで、

 とっ捕まえろ!」

   「へィ!」と言って、(主税を)追い

   かけて行く捕方集団。

   ──やや仰角で。

   屈んでいる辰、ふと見下ろす。と、

    ×    ×    ×

   ──やや俯瞰で。

   地面に稲荷の面。同時に幕切れの

   拍子幕のが続いて。

──────────────────────

㉑ 江戸の町筋(夜)

   逃げる主税。それを追う平蔵と捕方集

   団。

   ──徐々に 俯瞰になって。

   面を拾い上げて追いかけて行く辰。一

   行、真っ直ぐ遠ざかって行く。

   舞台の様にフレームの上手から引かれ

   ていく定式幕じょうしきまく。引き終わって止め

   暗転。



              『序開き』終

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