10月

バイクに乗る時に羽織る革ジャンの下に

トレーナーを着るのが習慣になってきた10月終わり


あの日も、タツヤと待ち合わせた。


10代最後の秋だった。

いつも二人で走っていた。

向かったのは、あの頃お気に入りだったD峠


前を走るタツヤのNSR、

カストロのチョコレートみたいな臭い。

峠の麓、かじかんだ手に自動販売機の缶コーヒーがやけに熱く感じた。


今でも鮮明に思い出す。


右の高速コーナーから左の直角コーナーへと続く道。

土手には、葉がほとんど落ちて枝だけになった木々。

ひときわまぶしく光るブレーキランプ。


パン!パァン! シフトダウンの甲高いエキゾーストノート 


左コーナーを前にタツヤの体が、すっと沈む。


CPを超えたところで、突然視界から消えたタツヤの体が、

対向車線を走ってきた四駆に吸い込まれるように滑って行った。


ペキョッ!真横で何だかやけに軽い音がした。


左コーナーを曲がりきったところ、

対向車線に突っ込むようにバイクを止めた。


タツヤに向かって走った。


午前五時。


マンホールに光る霜を割って走るNSRのタイヤ跡。


カストロの臭いに混ざる血のにおい。


あらぬ方向を向いたタツヤの足。


足元に割れたシールドの半分が転がっていた。


『死』という言葉が、心を氷漬けにした。


体が動かなかった。


親友だと思っていた。


19歳の秋。

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