ワンシーン

鷹山勇次

心を解き放しても

8月下旬。夏は終わったのか、まだ続くのか。


厚い雲に覆われた空に、はじけるような“夏”はなかった。


午後の駅前カフェテラス


暑くはない。


まとわりつく湿気の多い重い空気が、


ただ座っているだけの私を疲弊させていく。


グラス1/3まで減ったアイスコーヒー


氷の溶けた上層の透明な水と対比するように


濁って重い感じ、下層のよどんだ色のコーヒー。


誰かが外から手を加えなければ、


決して混ざり合うことのない分離された液体達。


さっきから、私の目の前で意味のない音を発し続けている


日に焼けた痩せこけた男。


良く動く口だ。


どうして私はここにいるのだろう。


そんな思いが心を支配し始める。


どうしてわたしはこの男と一緒にいるのだろう。


きっと、この男と私も混ざり合うことはない。


どこかに行きたい。


ここではないどこか。


誰か。


BGMのような男の言葉が、私の頭上を流れていく。


空虚を見つめる私に気付かない男。


曇り空の午後は、なにもかもが私を疲弊させていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る