スキル『精霊王の加護』を持った俺、追放されてしまう。精霊の加護がなくなり、レベルも魔法もスキルもなくなって路頭に迷ったから戻ってこい? 俺だけ精霊に慕われて最高に幸せなので君は野たれ死んでてくれ
【勇者SIDE】死亡したシド、復活するも多くの経験値を失う
【勇者SIDE】死亡したシド、復活するも多くの経験値を失う
(へっ……あんな奴いなくてもなんとでもなるぜ。なにせ、この勇者パーティーには大勇者シド様がいるんだからよ! クックック!)
勇者シドはそう思っていた。
「ねぇ……本当に行くの?」
聖女エミリア及び他のパーティーメンバーは気乗りしなかった。勇者シドはアレクがいないにも関わらず、Sランクの危険ダンジョン。『闇神殿』に足を踏み入れようとしていたのだ。
闇神殿には強力で凶悪なモンスターがうじゃうじゃとしているのである。
「当たり前だろ! 何を不安に思う必要があるんだ!」
(あんなアレクなんていうお荷物野郎、いなくたって平気なんだよ! なにせ、このパーティーには俺様がいるんだからな!)
しかし、この時、勇者シドは知らなかった。勇者シドにはもう、悪霊を守る存在、精霊がいなくなっているという事。既に勇者シドは悪霊に取りつかれていたのである。
悪霊に取りつかれたシドはこれから煮え湯を飲まされるような苦難を経験し続けるのである。
アレクがいなくなった事により、シドはあらゆる物を失っていく。得た経験値も、装備も、魔法もスキルも。そして名声。仲間達さえ。
何ひとつ持たなくなるまで勇者シドは失っていくのである。
「へっ……たどりついたぜ。ここが闇神殿だ」
「い、良いの? シド! もし死んじゃっても私の蘇生魔法があれば復活できるけど、その際は多くの経験値を失うのよ!」
死亡した場合、聖女エミリアは蘇生魔法を使える事ができた。その際には経験値の半数を失う。レベルが99になるまでの必要経験値が約10000000EXPそれが半分になると、大体レベル70程度まで落ちると思っていい。
「何言ってるんだ! 俺様がクエストに失敗なんてするわけがねぇだろ! そんな蘇生魔法によるネガティブペナルティなんて心配する必要がそもそもねぇんだ!」
勇者シドは怒鳴った。
「……そう、ならいいけど」
エミリアは押し黙る。他のパーティーメンバーも不安を抱えつつもリーダーである勇者シドの決定には逆らえないようであった。
『闇神殿』に入った勇者シド。彼らの目の前に早速、Sランクの危険モンスター『アークデーモン』が現れた。
デーモン(悪魔種)の上位種族。上級のデーモンである。悍ましい見た目をしたアーク・デーモンはボスキャラとしか思えない強烈な威圧感があった。
「へっ! 早速お出ましか! 見せてやるぜ! 俺様の力を!」
しかし、勇者シドは知らなかった。今までは知らず知らずのうちに、精霊の加護のおかげでバフ効果があった事。その効果が亡くなった今、勇者シドのかつての力が失われてしまっているという事。
彼は想像もしていなかった苦境に陥る事になる。
◇
「ぐ、ぐわああああああああああああああああああああああああああああ!」
アークデーモンの攻撃を無様に食らった勇者シドは壁面に叩きつけられた。
「な、なんでだ! 攻撃が重い! それに俺様の攻撃も前程効いている感じがしねぇ!」
勇者シドは大ダメージを受けて、頭から血を流していた。
「お、おい! エミリア! 回復魔法だ! 回復魔法をかけろ! レイア! 攻撃しろ! 早くあいつ倒せ! 俺様が死んじまうだろ!」
「わかっている! やっているだろ!」
剣聖レイアはアークデーモンを攻撃する。
「ちっ……やはり」
アレクの『精霊王の加護』にはパーティー全体のバフ効果の他にも敵全体への『デバフ』効果もあったのだ。つまりはアレクがいなくなった自分達が弱くなり、敵全体が強くなっている。苦戦するのも必至であった。
「は、早くしろよ! エミリア! エミリア!」
「ば、馬鹿! ちゃんと前見なさいよ!」
「な、なに!?」
アークデーモンは大きな口を開いた。口から何かが放たれる。熱光線だ。強烈な熱光線にシドは焼かれた。
「ぐわあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
勇者シドは間違いなく死亡した。
◇
「うっ……こ、ここは!」
勇者シドはベッドの上で目を覚ます。
「ここは宿屋よ」
エミリア達、三人のパーティーメンバーがそこにいた。聖女エミリア、魔術師ルルカ、そして剣聖レイアの三人だ。
「そ、そうか……さっきのは悪い夢だよな。俺が負けたなんて」
先ほどの光景をシドは夢だと思った。しかし、パーティーメンバー三人の表情は暗いままだ。変わっていない。
「お、俺は負けたのか?」
「ええ……そうよ。アークデーモンの攻撃で死亡したあなたは私の蘇生魔法でよみがえったの。でもそのためにあなたは取得した経験値の大半を失った」
「くっ……嘘だ! 嘘だ! 俺様が負けるはずがねぇ!」
「落ち着くんだ。勇者シド。敗北を受け入れる事から考えなければ成長はないぞ」
レイアは言う。
「私もそう思うな……事実から目を背けても人間的成長はないと思う」
魔術師ルルカも主張する。
「う、うるせぇ! 今回のは何かの間違いだ! 次こそは! 次こそはやってやるぞ!」
アレクなんて無能野郎いなくても、俺はやっていけるんだ! 勇者シドは全く懲りていなかった。
しかし、彼の意気込みとは反比例して、苦難が続いていくのであった。彼が全てを失うまで。彼の転落劇は止まらないのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます