『悪役令嬢』演じてみせます!

くるくる

第1話

 暗く俯いた表情、そしてやつれた顔。

 そうなってしまった伯爵令嬢の彼女のことを、この学園のみんなが噂している。

 曰く「彼女の婚約者の王子は、平民の女と浮気をしている」

 曰く「彼女は、女にうつつを抜かした王子のために、王子の公務を肩代わりしている」


 少し探しただけでも、こんなにも噂が出てくるのです。

 きっと、当の本人たちは真実の愛とやらに溺れているのでしょう。

 でなければ、こんな醜聞を揉み消さないわけがありません。


「ああ、こんなにも上手く引っかかるなんて、『悪役令嬢』って案外楽なのね」


 婚約者に裏切られ、全てを奪われてしまった公爵令嬢。

 可哀想な肩書き、最後には彼らの愛のために追放される。

 そう、その末路を神々は私に望んだ。

 ただ殺された、本当にそれだけの私に。


 ええ、望んだ通りに演じましょう。

 ですが私が出て行った後、この国がどうなるかなんて、わかり切っておられますよね?

 だって、真実の愛とやらを騙り私に公務を押し付ける馬鹿と、王妃教育も受けてない図々しい平民が、この大国であるレヴィトールを治めることなどできるわけがないでしょう。

 それに、横のつながりが強いこの国の貴族の中でも筆頭である私の父、その一人娘を傷物にして、そのあげく追放だなんて命知らずとしか思えませんわね。

 クーデターや反乱、あの二人の暗殺なども起こるかもしれませんわ。

 そもそも、あの人が王になれるかどうかさえもわかりませんわね。

 

 ああ、それを間近でみられないのが、とても残念です。

 やつれた顔はメイク、暗く俯いた表情は演技。

 全て、王家に嫁ぐための王妃教育で培ったものだ。

 元々の私なんて、ただの平凡な女子高生、何ができる訳もなく破滅してくれるとでも、神々は思ったのでしょうね。


 神様が馬鹿で、助かりました。

 

 少女は自らが今まで培ってきた全てを使い、神々が望まぬ結末へと導くことを望んだのです。

 その結末はきっと……


++++++


「ヴィエラ・レオニスト伯爵令嬢、あなたとの婚約を破棄させてもらう!」


 茶会の夜、運命の日。

 今日婚約破棄がなされて、私は役目を終えてこの国を追放となる。

 それが神々のシナリオ、本当のストーリー。

 でも、そんな風に自分が扱われるなんて、許容できない。


「我が愛しのロウェナに対しての罵詈雑言、嫌がらせ、知らないとは言わせぬぞ」

「えーんレオ様ぁ、怖かったですぅ」

「大丈夫だロウェナ、私が君を守るから」


 ああ、気持ち悪い、吐き気がする。

 こんな茶番で私が追放されると思われていたなんて。


「罵詈雑言?嫌がらせ?一体何の事ですの?」

「しらばっくれる気か!こんなに傷ついたロウェナを見て、可哀想だとは思わないのか!」


 可哀想、傷ついた、そんなことを言われても。

 みんなしらけたような顔をしているわ、まあそれもそうでしょうね。

 だって……


「私は授業に出ている時間以外は、あなたの仕事をやっていました、あなたが押し付けてきた仕事をね、そのロウェナとか言う平民の娘に嫌がらせをする暇なんてございませんわ」

「それじゃあ、ロウェナが嘘をついていると言いたいのか!」

「そんな事、一言も言っていないではございませんか」


 やっぱりこの方、頭が足りていないのでしょうか。

 いや、頭が足りていたらこんな平民の娘に騙されて、私との婚約をこの茶会で破棄しようだなんてことしませんわね。


「そんなことなどどうでもいいわ、私はロウェナと婚約をする、貴様はこの国を追放だ、ロウェナを傷つけた罰を与えなくてはならないからな」


 本当に頭の中身詰まってるんでしょうか?

 貴族の情勢とか結びつきとか学びましたか?教育受けてますか?

 身分も頭も悪い平民の娘といたからなのか、それとも元から馬鹿なのか。

 多分元から馬鹿なんでしょうね、お可哀想に。

「はぁ、話になりませんわ、私は家に戻ります」

「おい待て、話はまだ終わっていない!」

「あなたみたいな馬鹿と話していると馬鹿が伝染るんですよ、話しかけないでいただけますか?」

「不敬だぞ、身分を弁えろ!」

「追放なさるんでしょう?でしたら国や身分などは関係ないんではなくって?」

 私を追放して、平民と婚約をして、そんなことを賢王と呼ばれたあなたの父上が了承するとも思えませんがね。

 はぁ、本当に、神様はなぜ私をそんなストーリーが成り立つと思ったのでしょうか。

 神様の考えって、理解ができかねますわね。

+++++++

 この後のことですけれど、もちろん王は王子に激怒、平民の娘とその家族は王族をたぶらかした罪とやらで追放、王子は辺境の子爵令嬢と結婚して婿に行きました。

 あそこの子爵令嬢は確か、とんでも無く性格の悪い方だとか、美形を好んで拷問しているとか、そういう噂が目立つ方でしたけど、幸せにやっているといいですわね。

 私ですか?私は王に謝罪されて、新しい婚約者ができましたわ。

 まあ、あいつよりは遥かにいい人だということは言っておきましょうか。

 そういえば、私をここに送った神々はどんな顔をしているのかしら、怒っているのか後悔しているのか、何はともあれ追放されなくってよかった。

外に行ってしまったら、私、生活できませんもの。

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