2015年 8月 凪の始まり (後編)

第356話 2015年8月 1

夏……

8月の最初の土曜日


「リリィさん、可愛い!」


「けんたろー、そう言うの出来るようになったの?

可愛いって?


知ってるよ!


私が教え込んだんだから! 行こう!」


二カッと笑うリリィさんは、真夏の装いで、ノースリーブのワンピースを着て、現れた。


リリィさんの住む寮の傍で待ち合わせし、俺達は海岸まで歩き向かう。今日は、ここの街の花火大会で、オーナーのご厚意により、指定席に招待されていた。


初めて、リリィさんを誘った、あの花火大会から、あれから5年もたっていた。


高台にある細い道の行き止まりの、女子高生の巣窟から少し離れた場所で待ち合わせをする。


だって、恥ずかしいから……


「けんたろー……

別にいいよ……

こんなとこでコソコソしなくても……


みんな知ってるし……」


俯いたリリィさんは俺の手を取りながら呟いた。


「ああ……そうだね……」


悪いことしてる訳じゃないんだろうけど、気後れするというか……こんなに年の離れた女の子を連れて歩く後ろめたさに俺は……困惑していて……


有体に言えば……


他人の目が気になっていた。


傍から見たら……

どう見られているんだろう……

大人びて見えるせいもあって、高校生に見えないリリィさんは、そういう意味では、まあ、思うほど白眼視されてはいないと思うけど……


「どうしたの? けんたろー?」


「なんでもない」


「そう? つまんなさそう……」


そんな事無いよ、リリィさん……

とっても嬉しいよ。


でも、俺は、その表し方が苦手なんだ。

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