第350話 2015年5月 31

5月の連休が過ぎた木曜日の夕方、俺はゼミの無いこの日も、いつもの様に防波堤の先端で安い小さな折り畳みの椅子に座りながら、竿の先を、いやその先の青空を、虚空を、焦点の定まらないまま見つめていた。


遠く対岸に広がるどこかの工場から、終業を知らせるサイレンが小さく響いて来た。


そろそろ帰るか……

俺は、この何処かも知らない工場の就業サイレンを帰宅の合図としてずっと決めていた。


そうしないと、いつまでもここに居てしまうから……誰かに帰れって言われないと……帰る事が出来ないから……

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