第347話 2015年5月 28

「リリィちゃん……

あんた……

もう子供じゃないよね?」


ひとしきり泣いた私は、多少の落ち着きを見せたのだと思う、それを見ていたけんたろーのお姉さんがそんな事を聞いて来た。


「子供……」


「あの日、健太郎にお別れしたあの頃とは違って、その見かけ通り、大人の判断が出来るんでしょうって事」


「……はい」


「子供のあんたは、前後なく健太郎に待つように言って、いま、5年越しにここに来た……

それで聞くんだけど……


その5年たった大人のあんたは……

健太郎をどう思ってるの?


12歳の子供の話じゃないよ。

立派な大人の女性のリリィさんは、どう考えてるんだ?」


「どうって……

私、ずっとけんたろーが大好きで、ずっと一緒に居たくて、だから今でも大好きで……」


「大好きって……

聞くんじゃなかった……


やっぱり、あんた、子供の“好き”の延長だよ。

立派な大人の健太郎には不釣り合いだ。


辞めときな、相手は成熟した男だ。

あんたでは処理しきれない男そのものだ。きっと、やっぱり、上手くいかない。

その可愛いセーラーと一緒で、まだまだお嬢ちゃんだよ。女性というには……早すぎだ。


そうか、分かったよ。


あんたの母ちゃんはどうした?

元気なのかい?

また、健太郎に厄介かけんじゃないの?」


「お母さんは、おかげさまで、すっかり良くなって、向こうで元気に仕事してます」


「……はあ?

何言ってんだ?


向こうって……」


「モスクワでお母さんは仕事してます」


「……じゃあ、あんた、一人なの?」


「はい……」


「ちょっと……

見えないんだけど………………

話がみえないんだけど」


「私、けんたろーに会うために……

けんたろーとの約束を守るために……


もう、手遅れらしいけど……


私、一人で、ここに来たんです……」


「一人って……

あんなアホの為にわざわざ、こんな片田舎に……


来たのかい?」


「はい……

だって、約束だから……

いっつも待つだけのけんたろーに、一人でも、一人だけでも、ただいまって……


言ってあげる人がいても……

良いんじゃないかって……

そう思って……」


「そのためだけに……


そんな事の為に」


「けんたろーにとっては、それは小さなことじゃないんです。けんたろーは、待つだけで、いつも、その待ってる人は来てくれないんです。


でも、本当はそんな事ばっかじゃないって、けんたろーに言いたくて、分かって欲しくて、だから……


無理を言って、ここに来て、それに、私はけんたろーが大好きだから、お姉さんが言う様に大好きが子供の延長って言うのなら、


私は、けんたろーのことを……


愛してる。

だから、ここまで来れたの……


一人でも寂しくない。

だって、けんたろーの傍にいるんだから、だがら私は寂しくない。

それよりも、きっと私がいれば、けんたろーは幸せになれるって、そう思って、ここまで来たの」

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