第307話 別離3

17年前の母さんの残した最後のプレゼントは、当時の俺が欲しがっていた腕時計だった。欲しいといっても高いから、子供には贅沢だからと買ってもらえなかった防水、耐衝撃性能が立派な当時、流行っていた大き目の黒い腕時計だった。


既に電池は切れて動かないが、きっと最後のプレゼントになると思っていたんだろう。高い物を子供の俺に買ってくれていた。


動かない時計を俺は左腕に付けて眺めてみたが、それは、俺と同じだった。前に進むことが出来なくてずっと止まったままで、あの日のまま、ずっと母さんを待っていた俺と何も変わらない昔の黒い腕時計は、時計であるのに前に進まなくなった、大人なのに小学六年生の俺にダブって見えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る