第203話 レイアさん10

「レイアさん……それって泣くことじゃ無いですよ。

おめでとう。です。俺に、ちゃんとおめでとう言わせて下さい」


「ああ、そうだ。ちゃんと言って!」


細い指で涙を拭い、背筋を伸ばして真っ直ぐに俺を見るレイアさんに、


「おめでとうございます。俺との事を無かった事にされるってのは……

ちょっと……

かなり寂しいけど、でも、それがレイアさんの幸せなら……


それは俺も嬉しいです」


また、一筋、涙を流す。


レイアさん……


泣かないで……


「もう……女を泣かせるな!!」


笑顔をつくりながら、目に浮かぶ涙を拭いて、俺の肩にもたれて来た。

とても良い匂い、大人の女性の妖艶な匂いが心に残った。


俺とレイアさんは、俺が店に入ってすぐのころからの付き合いで、最初から面倒見の良い人で何かと気にかけてくれて、それが俺の絶望していた心の明るい希望だった。そんなレイアさんがここに来なくなるのは、とても寂しい事だが、この仕事の終わりは、それは新しい生活を意味する事がほとんどで、それが結婚して幸せになるとういうのなら……


それをおめでとうと言うのが一番の、最高の贈る言葉になるのだから、俺の、所詮、子供の気持ちなど、心の奥底にしまって、大好きな……


……お姉さん……


の幸せを祈るのが、今の俺に出来る……


精一杯だということ位、分かっていた。


さようなら、ありがとう、レイアさん。

大好きな……

俺のお姉さん。


それが俺とレイアさんとのお別れに……なった。

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