第143話 けんたろーの落とし方1

「何で、リリィさんここにいるの?」


「だって、けんたろーが凄い思いつめた顔してホテルを出ていくところ見ちゃったから、気になって、ごめんなさい。後つけちゃった……」


私を大好きなけんたろーなら、この手で落とせる。私は今までの経験で最適解を出した。


「リリィさん、俺、これから人に会うんだ。悪いけど、ホテルに戻ってくれる?」


え?


何言ってんの?


私よ。


私が来たのよ。


もう少し喜んだら?


少し……


いえ、かなり、困惑というか有体に言えば迷惑顔を私にして、わかりやすい顔のディスプレイに“早く帰れ”と書いてある。


「イヤよ。何でそんなに怖い顔しているのか話してくれなきゃ帰れない、っていうか一人で帰れない」


そんな事は無いが、粘ってみた。


「俺、これから人に会うんだ。十なん年かぶりに。だから、ホテルに戻って」


困惑というよりも結構、何?……


見た事無い寂しげな表情をしている。昼のお弁当からおかしいよ。けんたろー。どうしちゃったの?私はそれも気になって付けてしまったのだが、地下鉄の駅の帰宅時間の雑踏の中、私とけんたろーの二人だけが、ぽっかりと喧騒に取り残された様に立ち尽くしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る