第59話 子供の頃の俺の夢3

俺は廊下を歩きながらその文集を見ていた。何が、……当時の俺は何を書いていたのか、すぐにでも確認したくなったから。


「廊下はまっすぐ前を見て歩け! そんな事もわからないのか!」


俺の前の方から、丁度、俺にだけ聞こえるくらいの声がして、視線を前に向けると、俺の前には、児童しかいなくて、明らかに大人の男の声がしたので、慌てて振り返ると、教頭先生が既に後ろの方にいて、こちらを見ることなく消えていった。


すれ違いざまに言われたんだな。そうか、気をつけよう。


席に戻り、文集を、A4サイズの100ページほどの青い色の表紙で閉じられた文集の、五年一組佐藤健太郎の作文を読んでみてみると、17年前の小学校五年生の俺は、どうやら、学校の先生になりたかったらしい。


ほんとに忘れていた。


全く、思い出す事もなかったし、自分が書いたのかさえ疑いたくなるくらい綺麗さっぱり忘却の彼方だった。


先生か……何がよかったんだろうな?


俺はその当時、勉強は苦手ではなかった。むしろ好きだったと記憶の彼方では記憶している。実際はどうだっか知らないけど。


でも、あー、そうか……


俺の中の記憶の引き出しのずっと奥の奥、引き出しが開かなくなって変に思って中身を書き分けて見てみたら、引き出しの奥で丸まって存在すら忘れさっていた衣類が出てきたように、俺は急にそいつが会った事に気が付いた。


そうか……


『学校の先生なんて素敵ね。子供に教えて、子供に教わって……人として成長するなんて素敵なお仕事だわね……』


俺の大好きだった人が言っていた。


俺が先生になりたいんだといったら、母さんは言っていた。それで、俺はその気になってそんな夢を書いたんだ。そして、その大切な人がいなくなったと同時に俺はその夢も記憶から消したんだ。そして、それっきり、甘い、見果てぬ夢なんて見ない事にしていたんだ……思い出した。

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