5月 リリィさん
第13話 美琴さん1
「ブルーオーシャンへようこそ!!」
GW初日4月の終わり。俺はスタートダッシュを決める。いや、陸上の話ではない。お店の売り上げの話だ。このために出稼ぎも5人集めた。レギュラー10人もどこにも遊びに行くなと脅迫まがいの脅しを入れて置いた。やんわりと。そして、15人態勢でGW特別8時開店。朝割りまでやってやる。一気に行くぜ!
穏やかな春の温かさは既に失いかけて25℃を超える予想すら出ているGWの朝7時、キャストは超夜型、どこまで出来るのか、ここは俺の賭けだ。後戻りはできない。いやそれほど大げさな話では無かった……か。
ここは港町だ。大型の船舶が止まれる港がすぐそこにある。ここから、街から、少し離れたところには工業港湾的な役目も担えるような施設が整った埠頭が整備され企業のコンビナートもある。
街は昭和の色が濃いさびれた商店街が何処かタイムスリップしたような風情を醸し出して、そこから隣のブロック、大通りに囲まれた内側の地区が俺の店と同じ業態がたむろする南東北のパラダイスを形作っている。だからといってはなんだが、非常に、それは、日常の中にある。同じ並びに寿司屋やら、お好み焼き屋やら、蕎麦屋が普通にあって普通に営業しているのだ。地元の日常の風景で、なんら、特別な感じはしないが……
でも、あれだな、それは俺の目が慣れてしまっているだけだな。さびれたシャッター通りに出勤途中の煌びやかな、すたれた街並みに不釣り合いな、お嬢様方が歩いているのは普通に違和感だな。慣れとは怖い。
「店長、美琴さんと連絡が取れません」
充希が、10時予約有の美琴さんと連絡が取れないと泣きを入れてくる。そんなの俺が知るかと言いたいが、
「携帯ならしたよな」
「モチっす」
美琴さん、普段なら18時出勤のお姉さま。とても10時に起きてくるとは思えない。なんなら、さっきくらいに床に就いた可能性も……
「ちょっと、行ってくる」
俺は美琴嬢を迎えにアパートまで車を走らせることにする。って言っても寝てるやつ起こすのは一苦労なんだよな。まあ、時間通りに会社に行って時間通りに帰る堅気の会社員からは想像できないと思うが、こういうのよくある事で、シフトが夜から朝に変わる日は特に多い。得てして本人に悪気はない場合が多いが、ここで既に社会人としてどうなのかと問うてみても、そんな事が出来たら堅気になると言い返されることが多々ある。開き直りだ。だが、他のキャストの名誉のために言っとくがこういうのはごく少数で、そのごく少数が堅気より多い頻度で出現する。レアモンの高確率キャンペーンみたいなものか。違うか……。
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