第14話 美琴さん2
美琴さんの海岸沿いのアパートを目指す。
確か、この辺りだ。防波堤沿いの道路から海岸平野の北側のドン詰まり、背中に海岸段丘の崖を背負っている二階建ての民営アパート。その二階の一番奥の部屋だった。はず。
この辺りの道路は入り組んでいて、迷宮のようだ。
道路から一段高く、100mほど手前の防波堤の直近を通る道路からは、アパートは見えているのだが、そこにたどり着けないでいる。時間が無いと思うと焦りばかりが募っていく。
と、思っているうちに、あ~、行き過ぎた上に行き止まり、神社の参道に続く急峻な崖を登る為の階段が目の前にあるだけだ。
「波留神社」
そんな名前が階段の横の石碑にあった。
神社がこんなとこにあるんだな……
そんな事考えている場合じゃない。Uターンすら出来ないその道をバックで戻ると100m程のところを右にギリ曲がれそうな路地があった。さっきは気付かなかった。丁度、その路地は直進すると死角になる様な取り付け方で俺は気付かずに過ぎ去ったらしい。
そして、ようやくにして、美琴さんのアパートの前に着いたのだが……
美琴さん、二階建ての2DKのアパートにワンワンと……ヒモと一緒に住んでいる。
「美琴さ~ん」
ピンポン連打、ピンポン連打、ピンポン連打、ピンポン連打、ピンポン連打、ピンポン連打、ピンポン連打、ピンポン連打、
から~の
携帯鬼電、携帯鬼電、携帯鬼電、携帯鬼電、携帯鬼電、携帯鬼電、携帯鬼電、携帯鬼電、携帯鬼電、ピンポン連打、ピンポン連打、ピンポン連打、ピンポン連打、ピンポン連打、ピンポン連打、ピンポン連打、ピンポン連打、携帯鬼電、携帯鬼電、携帯鬼電、携帯鬼電、携帯鬼電、携帯鬼電、携帯鬼電、携帯鬼電、携帯鬼電
「なんだよ、うっせ~な」
ガラのお悪いお友達が、男子友達が出てきた。
「うっせ~、おめ~に用はね~んだよ。ヒモどいてろ!」
俺はひょろっとしたプロの“たかり”を片手で払い部屋の中に不法侵入してやった。
わんわんわん。
美琴さんの愛犬、はんぺんちゃんだ。
チワワの毛の短い白い子。可愛い~。
「よーし、よしよし、可愛いね~、そう、ご挨拶に出てきてくれたの~。よちよち」
やってる場合じゃなかった、はんぺんちゃんを抱えて、一番奥の8畳ほどの部屋のダブルベットに全裸でお眠りあそばす美琴さんの肩を揺らして、
「美琴さん、仕事ですよ。起きてください」
「ん~、なに……」
目をこすりながら大の字になってふくよかなお胸を俺に向けている。いや全部、向けている。
「美琴さん、仕事ですよ。起きてください」
二回目です。
「おい、ヒモ! パンツ穿かせろ!」
部屋の入口で事の成り行きを見守って棒立ちの使えなさそうな小男に俺は指示して、美琴さんの準備を始めた。
美琴さんは、三十代のお姉さまで何気に人気キャストだが、突然、休む癖がある。これにはまいる。特に予約があるのが昨日からわかっているのにこれでは話にならない。
「充希! 美琴さん確保! 部屋の準備しとけ!!」
俺は携帯先で充希に怒声を浴びせ、社用車86のイグニッションをONした。嘘だ。
俺は無事、美琴さんをサルベージして車に乗せて店へと突き進んでいる。既に40分経過だ。隣の助手席で化粧をする美琴さんは
「ご~めんね~、店長」
悪びれた様子もない。
あの、くそヒモ、美琴さんの時間管理くらいしろよ。その金で遊んで暮らしてんだろう。ほんとつかえねぇな。
「美琴さん、この業界でも時間にルーズだといずれ行き詰りますよ。ホントに」
俺が珍しくキレかげんでいってやった。
「もう、こわい~ぃ」
薄ら笑って、アイライン整えている。こりゃダメだ。
「店長~、学校どう?」
最近の俺へのあいさつ代わりの質問だ。
「あ? 毎日楽しいよ。違う世界が見れて」
いや、違う世界じゃなかった。本来、俺が16年前に見ておくべき世界だった。
「そう言えば、ウチのアパートにも店長とおんなじ学校の子がいたよ。多分、六年生だと思うんだけど、凄く大人っぽいの。いつも挨拶してくれるよ」
「へー、そうですか、今の子供は大人っぽいですから」
まあ、よくある事だ。
それより、残り10分、間に合うのか俺。
今、俺は社用車の国産リッタカーを赤城山麓の下り最速張りに飛ばしている。イメージはフルブレーキからの、パワードリフト中。ヘアピンを抜けてからのアクセル全開、続く複合ヘアピンへと入る手前、ギリギリまでアクセルペダルに足を置いた俺は、一気に2速へ落とす!!ダブルアクセル、ダブルクラッチ、スムーズに繋ぎ、回転数は落としてない!
……いや、オートマだった。あくまで脳内86だ。
そして、店の前に横付け。
こうして俺のGWは始まった。さぁ、行くぜ! 目標越え!
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