第11話
給食が終わると、廊下から満島校長先生が俺を手招きして、呼び出したので、
「何でしょうか、先生」
「今、良いですか?」
小学生の俺が、昼休みに、今、忙しいので、などと、いうようなことがあるはずも無く、
「大丈夫です」
むしろドッジボールの的にならずに済んで一安心だ。あいつら、いや、ご学友共は、手加減なしにぶつけてくるから、ほんとに大変。六年生ともなると結構な力なのだ。
俺を呼び出した、救世主の校長先生は、俺と共に校長室へと向かった。
校長室なんて入ったことあったかな?まず記憶がないからね。無いんだろう。内開きのドアを開けると高そうな革張りの応接セットがあり、その奥には、木製の、これまた高そうな机があって、その背後は校庭が見渡せる大きな窓があった。
「座ってください」
「はい」
俺がブラウンの革張りソファに身体を預けると、
「どうですか? 学校は」
「おかげさまで、楽しくやらせてもらっています」
「そうでしょう、何故、佐藤君は16年前にその気持ちを持てなかったのでしょうね? ま、それは、今、言っても仕方ない事ですね。まだまだ、始まったばかりですよ。これからも、頑張ってくださいね」
満島先生は、校長先生は、穏やかに俺に微笑んで、
「佐藤君、君のクラスで何か気になる事はありませんか?」
先生の穏やかな微笑みが消えて、俺を見つめている。
「気になる事ですか……みんな、活発に授業中に発言するし、仲良そうですし、そんな事ですか?」
「佐藤君、あなた本当は気付いているでしょう?」
校長先生が俺に凄みを効かせている。
気付いている事、何だろう?
「佐藤君、僕は、君との六年生を取り戻したかった。そして、僕は気持ちよく教師を、教師人生を、終わらせたかった。でも、僕にはそれと同じくらいの想いがあるのです」
「何ですか?」
「僕と同じ思いをする教師を作りたくない。これが、今の、16年前の僕ではない、今の僕がやるべき仕事なのです」
「はい」
「分かっているでしょう? 佐藤君。あなたのクラスにも、16年前のあなたと同じ子がいる事を」
先生が、右横のソファから俺の方へと顔を出して、凄みのある表情を作り、俺を見ていた。
先生、俺に“ゴゴゴゴゴゴゴ”みたいな効果音のコマ割りしないでください。怖いです。
「先生、篠塚さんの事ですね」
「そうです、気付いていたのでしょう?」
俺は篠塚さんが何者かなど知らないが、俺の出席番号の後ろで、担任の
「気付いていました。でも、それが、俺に何か関係するのですか?」
「関係するのですか? と、問われれば、関係しないかもしれない、でも、関係したら、どうなるでしょう? 僕は、あなたの助けが欲しい。これからの君へのお願いは、僕の責任を君に押し付けるつもりは毛頭ないという事だけはよく覚えておいてください」
そう言うと、校長先生は一拍おいて、
「君しかわからない、小学六年生の大切さを、彼女に伝えて欲しい。君にしかわからない、これから待ち受ける過酷な現実を伝えて欲しい。これは、本来、担任の彼女の仕事でもあり、学校を預かる僕の責任でもあるのですが、彼女は、あの通りのお嬢様で、恐らく、学校に来れなくなる生徒の気持ちなど理解が出来るとはとても思えない。
しかし、出来ないからといってやらせないわけにはいかないが、取っ掛かりが無いんだよ。そんな事になった子供もいないようなお嬢様学校をエスカレート式に出た先生だから。
彼女はやらないわけではないんだ、出来ないんだよ。どうしていいかがわからないんだ。
佐藤君、君の担任の、教師としての未来を、君に任せる。彼女に教師の楽しさが理解できるのと一緒に篠塚さんを救えないだろうか? いや、救って欲しいのです。
そして、君と、篠塚さんと笑って卒業してほしい。陽葵先生にも、僕と同じ後悔をしてほしくない。彼女を動かして、陰になり彼女を支えて欲しい。君なら出来るだろうと思っているんです。幸い若い女性の機微が分かりそうですからね」
「そんな事……」
「出来ないですか? 出来ないはずがないですよね? 今、君は何処にいるんですか? 小学校に通っているんですよ。大人が、児童として通っています。出来ない事が出来ています。
ほら、出来ない事など無いじゃないですか? 君が、君自信が良い証拠です」
良い笑顔だ満島先生、これ、何か先生のシナリオ通りだな。
「申し訳ありませんね、これも、君を学校に招いた時の僕の思惑の一つなんです」
満島先生は、にやりとして俺にウインクをしてきた。
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