第6話

「佐藤君」


「はい」


「篠塚さん……は、欠席」


「鈴木君」


「はい」


先生が、担任の陽葵ひなた先生が出席を取っている。


思うに、クラスメートの名前は難解だ。恐らく、まともな大人は読めない。俺はまともな大人じゃないから尚更読めない。こうも教育の現場にキラキラなお名前が浸透していると先生も慣れるまで大変だろうと思う。今の、俺がそうだ。なので、俺は苗字から覚えて行こうと思う。


俺の前に座る俺推しの未海みみさんだって難解だが、これでも読みやすい方だ。最難関は意外にこの教壇に立つ、二つ年下の担任女教師、伊藤陽葵先生だろう。


なぜか、一発で読める名前の子がいるとちょっと、ほっとする。安心する。


一時間は45分の授業を小学六年生は6時間、毎日やるのだが、大人になって思うのは45分ぐらい集中すればあっという間に過ぎ去っていく。事務所で一日の売利上げ計算をしている時等あっという間だ。現役の頃、いや、今も現役の小学生だが、一周目(なんか、ループものみたいだな)の時は、やけに一時限が長かったのを覚えている。


そして、今、俺は分数の計算をしている。二周目の俺は分数の計算などなんてことは無い。いや、そんな事はない。これは満島先生のおかげだ。こんなところで繋がっているんだな人生。


小学六年生の学習内容は、単純な物ばかりではない。以外に、初見、いや二周目で16年ぶりに解くにはかなりハードルが高い問題もあったりするから驚きだ。ご学友はつい先月まで5年生だった方々ばかりなので、積み重ねが違う。俺は16年ぶりだから、思い出しながら、探りながらだ。


驚いたのは、ご学友は積極的に授業中に手を上げている事だ。俺の時代は先生にあてられるのはアンラッキー中のアンラッキーくらいのどうしようもない心の慟哭を伴い、天を仰いで、答えたものだが、俺の周りは全く違う。中には手を上げないでローンウルフを気取っている強者も散見されるが、凡そそれは、マイノリティーである。だから、俺も手を上げて答えてみる。


「それじゃ、佐藤さん」


160cm、スレンダー清楚系お嬢様タイプ、そうだな、“いけない事を教えてあげましょうか?女教師、放課後の秘密のアルバイト”プレイスタイルは責め/受け両方……


おっと、失礼した。職業病だ。忘れてくれ。


気を取り直して、


「5分の4です」


「はい、5分の4正解です」


「お~!」


先生の嬉しそうな表情とご学友の歓声が。なんか俺も普通に嬉しい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る