第28話 打開策は見えず
私とイルディンは、お互いに目覚めているのに、布団の中で動けなくなっていた。
とにかく、どうにかして打開策を見つけなければならない。恐らく、それはお互いの共通認識である。
だが、このお互いに身動きがとれない状況を打開できる策などあるのだろうか。
「……そうだ。僕が寝ている振りをすれば……」
そこで、イルディンがそのようなことを呟いた。
それは、中々いい作戦だ。イルディンが寝ている振りをしていれば、私は特に何も気にせずに目を覚まして、離れることができる。案外、丸く収まる方法なのではないだろうか。
「いや、でも、姉さんに近づいたことを認識させたくはないか……」
しかし、イルディンはその作戦を否定した。
それは当然だろう。優しい弟は、私を悲しませないために、近づいたという事実も消し去ろうとしている。そのため、私がその事実を認識する作戦は許容できないのだ。
だが、その考えには間違いがいくつもある。そもそも、私は既に起きているため、この事実を認識している。しかも、その事実を悲しくも思っていない。
イルディンの考えは、そのように否定できるものばかりだ。ただ、それを彼自身が認識出る訳ではない。だから、今の弟の判断はそうなって当たり前なことなのだ。
「なら、どうすれば……」
私からすれば簡単に解決できる作戦は、イルディンによって否定されてしまった。
そうなると、次の作戦を考えなければならない。
いっそのこと、私が動けばいいのではないだろうか。寝返りを打ったということにすれば、誤魔化すことができる可能性がある。
しかし、意識がある中、寝返りと同じように体を動かすことができるだろうか。ただ、イルディンに起きていると認識させるだけの可能性もある。これは、そこまで得策とはいえない。最後の手段といえるだろう。
「あがっ……」
そこで、イルディンが苦しそうな呻き声をあげた。
その理由は、なんとなくわかる。私達は今、お互いに指一本も動かせない状態だ。
体が動かせないというのは、中々に辛いものである。神経を使うし、体は痛い。
だから、弟が声をあげることは納得できる。できることなら、私も呻き声をあげたいくらいだ。
「あっ……」
「え?」
そんなことを考えていた私は、思わず体を動かしていた。
無意識の内に、腕を動かしてしまったのである。どうやら、いつの間にか我慢の限界に達していたようだ。
別に、腕を動かすだけならそれ程問題ではなかった。元々、それは最後の手段だと思っていたからだ。
ただ、声をあげたのは失敗だった。声をあげてしまえば、起きていることが露呈してしまうだろう。
「姉さん……? 起きている……?」
「うっ……」
私の予想通り、イルディンは私が起きていることに気づいた。
ゆっくりと目を開けると、目の前に微妙な顔をした弟が現れる。
こうして、私はイルディンに起きていたことを知られてしまうのだった。
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