第33話


 アムちゃんの助けを求める内容は村の救助だった。


 噂話に漏れ聞くには、今起こっている長い百鬼夜行のようなこのスタンピードは口伝(くでん)で残るぐらいのものだった。

 

 もしかしたら、暇つぶしに女神様が俺にぶつけて楽しんでるんじゃないだろいか?と疑うぐらいタイミングが悪い。


 俺達がいたスノーエンドの町は幸いな事に守る事ができたけど、周辺の集落や村はどうなる事かとスノーエンド町長は頭を抱えていた。

 おそらくは全滅か良くて住人が在在所所(ざいざいしょしょ)に逃げ惑いそれで…… と町長は雪を睨みつけていた。


 アンデッドに殺されるか凍死か…… 酷いな。

 対策までに時間が無かったから俺達も助ける事が出来なかった。合掌。

 

 そんな中、アムちゃんの村はまだ存続をしていた。


 スノーエンドの町長は地獄に仏といった所か。


 この辺りの住人がアンデッドにより殺戮をされているので来シーズンの納税はガクンと下がる。冬季限定の代官として罰せられるのは確定みたい。


 管理職エグいよね。


 「死者が減ると罪が軽くなるんです…… ヒロ様どうか…… 」と町長に泣きつかれたよ!おっちゃんだけどね町長は!リーナリアの時の慰謝料で逃げればって冗談で言ったら真顔になってたけど…… 要らん事言うてもうたかな?


 まぁ町長に頼まれなくてもアムちゃんの巨乳のためなら、もちろん助けにいくけどね!

 助けたらギュッとしてくれるだけでもいいよ。へへっ。


 さて、ではアムちゃんの村に出発と行きたいけど

 「む、ヒロキこのアンデッドの中を出ていくのは流石にムリで、あるな」

 スノーエンドの町の結界には絶賛スタンピード中で凄い事になっている。


 「ああ、それは大丈夫だと思う」

 俺はストレージから[至聖者の遺骨]の大腿骨部を取り出して、これまたストレージにある[王族のストール]を出して骨な丁寧に巻きつけると、それを持ってスノーエンドの町の結界から歩き出てみる。



 聖域ではないから小さい結界になったけど持っている大腿骨から半径300メートル以上は魔物の侵入を許さない光がシャボン玉のように広がりアンデッドを消し去っていく…… RPGでよくある魔物避けの最高級アイテムを手に入れた感じか…



 そこからストレージから魔導除雪車を取り出して運転席にロックマンさん筋肉バカ、助手席にアムちゃん、その膝上にリーナリア。そして屋根の上で[至聖者の遺骨]を掲げる俺で出発。


 扱いが酷くない?



 まぁ、薪小屋での一幕で寒さヤバイと実感したからスクロールで[寒さ耐性]という人としてどうなの?というスキルを[極]まで上げたから問題はないけど…… ないけども!

 血液も[血液魔法透析マジックダイアライザ]があるるから大丈夫…… と思う。


 走り出すとなかなか眺めが良い。レベル上がって力がついたから魔導除雪車が走るぐらいのスピードなら屋根から落とされないだろう。

 

 「しかし…… ほんとにアンデッドだらけだな」

 雪の下に隠れてるだろうと思われる街道を走ると小規模に固まって移動するアンデッドがいる。


 進行方向やスノーエンドの町じゃない方へ向かってるみたいだけど他の都市とかに行くなら問題があるな。


 「ダメだ驕るな俺。まずは目の前から一つずつだ」

 魔導除雪車の上で[至聖者の遺骨]を光らせていたからか魔物は全く近づけなかったからよかったけど…… あのアンデッドどもが進む先にいる人々が助かるように今は祈るしかないな。


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 …… 吹き荒れる雪が俺の体に積もっても寒くない事に気持ち悪さを覚えながら車で走る事、1時間ほどで地球で言えば包(ゲル)のようなテントがいくつも並ぶ村に到着した。

 アムちゃんはこのスタンピードの中をスノーエンドの町に来たのか。リーナリアと力比べで勝てるっぽいしかなり強いんだろうな。

 

 アムちゃんに関心しながら村の中を歩くと寒い雪の上に寝てる人々がいる。おいおい虎獣人って元気すぎね?とさらに近づくと異変に気づいた。


 「おいおい、なんだこれは」

 「なにってなんだよ?辺鄙(へんぴ)だけど私の村だぞ!」

 「いや、違くて…… 」


 虎部族の村(アイマク)では…… 中心部に火が燃やされ、ご遺体が何体も火の灯りに照らされていた。


 「間に合わなかった…… のか?」

 「いーや…… 父や母それに屈強な男衆のおかげ・・・で村は全滅しなかった!」

 ご遺体に向かい誇らしげにアムちゃんが言う。

 

 ご家族が…… 死んだのか。

 

 黙祷をしていたロックマンさんバカ親父も文化の違いに片眉を上げて驚いている。

 戦闘民族なのか、戦って死んだ事が名誉なのか…… ?マヤ文明みたいだな。

 

 「…… そうか小さい兄チャンも戦死したか!私が村を出て救助を求めに出た後でまたアンデッドが攻めてきたのか!?クソッ!」

 アムちゃんの両親の横に男性の首があるな……


 そうか彼がアムちゃんの兄弟かな。スノーエンドの町に来るまでには生きていたんだろう…… 俺には死ぬ事が名誉なのが意味分からんし、辛さを隠したように笑いながら涙を流すアムちゃんの気持ちも分からん。


 こりゃあ…… ひょっとして獣人は文化が違いすぎて付き合うのが難しいかもしれないな。


 しかし、この世界は本当に理不尽だな。


 「アム!帰ったか!?」

 「スノーエンドの町から助けは来るのか!?」

 俺もロックマンさんバカ親父に倣(なら)って黙祷をしていると大きい家(ゲル)から数人の男が出てきてアムちゃんに詰め寄ってきた。

 

 「ああ!ここにいるヒロキに任(まか)せれば大丈夫とスノーエンドの町長から紹介されたぞ!」

 と、アムちゃんに紹介されたんだけど、屈強なまたはナイスバディな虎獣人達に見られ…… 大きくため息やイライラと頭を掻いたりされる。あれ?落胆されてるの?


 「アム、おまえスノーエンドの町長に騙されたな」

 

 ざわり……

 獣人の1人の呟きで広場にいる数人の殺気が俺とロックマンさんバカ親父に向く。


 ふぅ、これで少し推測ができるな。やれやれこの異世界の人間は何してんだ。


 この異世界は差別が多くて、獣人はその差別の対象になっているんだろう。

 獣人の姿を見ない。人間の生活圏から離れ生活している。または簡単に入れてもらえないんだろう。


 町長に騙されたという言動も日頃からの思いが疑心暗鬼にさせている。

 人間じゃないエルフ耳をもつリーナリアには険阻(けんそ)な顔や、敵意を向けていない。


 たぶんコレ正解だろうなぁ…… ぶっちゃけるとめんどくさいなぁ……


 チラッと手に持つ[至聖者の遺骨]を見る。こんな遠くまできてイエスさんは人の醜さを見ないといけないのか…… すみませんと心の中で謝る。


 「あの!みなさんは騙されてませんよ?」

 「…… なんだヒトの少年?死にたいか?その男は役に立ちそうだが少年と娘は俺の子供より小さいじゃないかバカにするな」

 マッチョな虎獣人のおじさんが俺の言葉を聞いて唾棄する。ガラ悪ぅ〜い!見た目も怖ぁ〜い!

 

 「まぁ、まずは話しましょう」

 とにかく迎え入れてもらえないと話にならない

 俺はドンドンドンとストレージから酒を出していく。

 この世界は寒かったり辛かったりすると酒を飲むからな。獣人はどうなんだろ?



 無駄に喧嘩とかしたくないしなぁ…… と様子を見るようにアムちゃんに目をやる。

 「ヒロキ!これは酒か!?オマエ今はアンデッド来てないけど戦闘の最中だぞ!?」

 アムちゃんは大声で言いながら酒に近づく


 「分かってんじゃねーか!おい!みんな酒だ!」

 よっしゃーアル中異世界人チョロい!

 でも…… 他の虎獣人さんは…… やった!チョロい!


 そうして酒盛りが始まった。


 そこからはもう楽々で、ストレージから小さめの[教会]を出して設置、中の女神像にストレージから新しく出した小指の先の[至聖者の遺骨]を安置するとアムちゃんの村は聖なる結界に包まれた。


 さあ!そこからは花火大会だ!


 色々なアンデッドが聖なる結界に衝突しては光り輝きながら爆破。それが続く。


 ついでに、といった感じで結界ギリギリで立ってアンデッドに攻撃を加えてる人もいるな。やっぱり虎獣人さん達は戦闘民族みたい。


 村の家(ゲル)のテント奥に隠れていた虎獣人の老人や子供が大人の歓声に驚いたのか怖々と外に出てきて、忌々しいアンデッドが花火のようにバーン!と消えていくのを見て大はしゃぎ。


 「ご老人の顔色が良くないけど大丈夫かな?」

 出てきた高齢者が青い顔をしている。危機は去ったのにどうしたの?

 「ああ、今年は雪が早くてな、もともと食い物の備蓄は少なかったんだ。んでスタンピードだろ?戦士にメシを食わすのが先決だったからなジジババはメシ食ってないんだ」

 なるほど、ならばとストレージから食料をドーン!と大盤振る舞い。

 

 今に食べる分は世界中の屋台のものから、他の物は小麦や白菜、干し肉などなどスタンピードが終わった後も生活できるようにポイポイと取り出しながら虎獣人達に渡していった。


 これで、大丈夫だろうか?


 超絶偽善なんだが…… 有り余る富で死ぬ命が無くなるならいいだろ?


 「ヒロ、食料はありがてぇんだが…… さすがに今回は大人が死にすぎた。仲間の数が減りすぎて次の年の畑の雪解けの後の開墾作業や山での狩ができねぇ…… 」

 「ああ、そういう問題もあるか」

 広場に寝ているご遺体の数と村の規模を考えると…… 食料を渡しても焼け石に水だな……


 「スノーエンドの町に厄介になる…… 事になるな」

 「アムちゃん獣人の待遇は…… その、大丈夫なの?」

 「ああ、それなんだよ。金があればなぁ」

 虎獣人は必要なだけ狩と農耕をしている人々で、税金も金じゃなくて魔物の皮や牙などで済ましていたそうだ。

 つまり貯金がない。数人を奴隷にでも落とす事になるのか?


 金があればスノーエンドの町の貧困街にでも家を買って住めるのに…… このままじゃあ町に入っても路上で全員が凍死する…… とアムちゃんと大人たちが項垂(うなだ)れる。

 「よし!族長の娘の私が責任をとって奴隷に入る!これで何とかしばらくは食べれるだろう!」

 アムちゃんたら重大発言。族長の娘だったのもだし奴隷になるのもだし…… 良くないよね?


  ホラ!リーナリア!いつもの、なんとかならないヒロ?は?

 …… リーナリアったら濁る瞳でアムちゃんを睨んでいるけど大丈夫か?これ?


 「ヒロ?どーした?」

 「あ、ああリーナリアが…… まぁいいや。じゃあ資金をお貸ししますねー。利子は要らないです200年後までに返して下さいねー!」


 ドンドンドン!

 ストレージの中から金貨を出して積んでいく。

 こういう場合は資金の提供とか『あげる』の発言をすると反発があるから貸す事にする。まぁ俺が先に寿命くるだろうし実質プレゼントだ。


 次第に花火大会の興奮が嘘のように静まる…… あれ?


 「アムちゃん、これでよかったか?」

 「さっきからアムちゃんとか…… ちゃんは恥ずかしいな。ああ、ありがとうヒロ」

 「よ、よかったよ…… 」


 なんか、みなさん怖いんですけど。

 村の虎獣人さん達が俺達を取り囲んで頭を下げる。

 

 「ヒロ…… 人族の救世主よ」

 おお…… 感謝だったか…… よかった怖いよ……

 驚く俺に、1人の青年が近づくアムちゃんに似てる?


 「救世主よ我らの族長の娘、私の妹をやろう」

 「大兄ちゃん…… 」

 アムちゃんのお兄ちゃんだったのか…… って、え!!?

 

 「ヒロ…… そのよろしくな!」

 はいきました!確変です!

 アムちゃん嫁にきました!


 「キャ──────────────!!!!あはたきまりぬかたやあびなや!」

 嫉妬に狂うリーナリアの叫び声が夜に響いた。

 

 仲良くできるのかなこれ……

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