第23話
─────── ワシの名はアンブロジウス。
ロームン帝国を活動基軸に名誉法王をしておる。
まぁ、名ばかりじゃがな。
現在の法王は玲瓏(れいろう)たる声と、法王としては些か若い。落ち着きの中に野心が見え鼻元思案(はなもとじあん)が浮き出る時がある。
たとえ爛熟期(らんじゅくき)に入った今の教会でも選ばれる法王はもっと考量(こうりょう)せねばならん…… そう進言すると帝国の端にある僧庵(そうあん)に追いやられてしもうた。
まぁ、この年じゃ年金も出るし、お供も1人つけてくれたので暮らしてはいける。いやむしろ研究道具を運び入れる許しが出たおかげで楽しく知的好奇心を満たす生活が出来ておった。
…… ある日の事じゃ騎士が手紙を持って来よった。帝国宰相閣下から…… ワシは騎士を待たせてその場で封蝋を開いた。
遺跡の発掘の依頼という名の命令書であった。
『内容は年金もらってるし働け。もう教会はアンタがいなくても回るんだから、仕事は選ぶな拒否するな。皇帝陛下に成果を見せれば待遇は改善するかもね。』
これを難解に言い回したものじゃ。
元法王なめてんの?
しかし、しかしじゃ…… 確かに研究には資金がいる。皇帝陛下の名前があがる仕事は断れないじゃろと『快く引き受ける』旨の手紙をその場で返した。
────当日、現場には懐かしい面々が揃っておった。
ワシと切磋琢磨して生きた同世代の麒麟児達じゃ。いや児童ではないな。ほほほほ……
元帝国魔術師団の隊長 ローワン
元帝国武器研究所の所長 ケリスト
元帝国素材等貴重物品管理院のトップ プロロップ
そして元帝国法王のワシじゃ。
全員で顔を合わせるのは、さてはて何年ぶりじゃろうか?幼児が青年になるぐらいの年月は経っておろうな。とお互いに笑う。
笑いには自虐があるがのぅ……
この面々はつまり何かの弾みで命を失うのを期待されておるのじゃろう。奸策(かんさく)を弄(ろう)するにしてはちと稚拙じゃな…… いや、むしろ『必要ではない』と分かりやすくしておるのか?
お供もについた騎士の2人をチラと見る。
ふむ、練度が酷いのぅ。
魔法については元帝国魔術師団団長のより劣るが、ワシも心得がある。
この騎士は練度・態度と共にダメじゃな。
あとは雇い入れたという荷物持ちの冒険者を待つとなったが…… 来るや怒りがわいた。
父に幼児が2人というありえない親子の冒険者であった。
我らは死地に向かうやもしれぬ。幼き命が消えるのは許される事ではない。
ワシは筋肉で膨れた父に抗議の弁を述べたのじゃが、その時に
「なんじゃ?」
「……
ワシは、ハッとした。若いは弱いと決めつけておった。確かに女児の方は人族ではない年齢が見た目という決めつけは愚かじゃ。
次に目を凝らすと…… なんという事じゃ。
「父親は鍛錬が見えるので分かりやすいが、女児と男児共に恐ろしい力を持っておるな…… 」
いや、男児の方は化け物やもしれん。
しかも、ワシらの研究資材の全てをストレージに収納するとは……
ワシは女神様より助けを得たのかもしれぬ。
女児に飴を渡しながらそう考えた。
遺跡の
休憩の時も驚愕をした。もしかしてこの冒険者親子は想像もつかぬほどの大金持ちか他国の貴族かと勘繰る程の昼食を食べ、|元帝国素材等貴重物品管理院長《プロロップ》が思わず叫ぶ程に貴重なフロフロの実というものを堪能したりして目的地の石扉まで到着した。
うむ、プロロップの「この時点で元はとれたと」の言葉はその通りやもしれぬな。
さて、石扉じゃが……
ふむぅ…… これは恐らく結果を出せぬ探索になるだろうな。というのが第一印象じゃった。
歴史的なアプローチから考えると、この様な重厚で大きな扉は示威的な意味を持つものがほとんどじゃ。
この扉の向こうには
扉の接合部部が見えぬしな…… これはワシらを蔑める策略じゃとハッキリしたわい。ダルさ満々じやのぅ……
そう思いながら作業をしているとヒロ君から甘味の提供がされる。
これはいいのぅ…… ほう人の脳には糖分が良いとな。しかし、その知識はどこから…… うん?うん!?
我らを労いリーナちゃんの言葉に対してヒロ君の言った言葉に爺らは固まる。
旅人…… ワールの旅の日記…… じゃと?
白化(しらば)くれるのが下手なヒロ君をなんとか、なんとか!して!ワール氏の日記を読む事に成功したのじゃ。
テント内ではワール氏の日記を中央に白熱した議論が4人で交わされた。
もっと若い時にこの日記を読んでおれば…… と長年に定説とされた物の間違いや、まだ人が未発見の物まで記されたそれは老齢な爺に年甲斐もなく興奮を生んだ。
翌日、ヒロ君に取り上げられたが……
この仕事が終わればワール氏の日記をくれるという…… おかしな叫び声を思わず出してしもうた…… と恥ずかしむと同時に
ヒロ君、もしかして何冊か持っているから手軽にプレゼントすると言えるのか?
どこでこの日記を手に入れのか?
という疑問が新たに湧き出す。
ワール氏の日記は遥かに昔、時の宗教家の代表が一冊ずつ共に墓に埋葬されたはずじゃ……
墓を暴くにしても、失われた場所じゃ…… 辿り着けるとは思えん。
ホントに弟子になってくれんかのぅ……
そうじゃ!ひ孫をヒロ君の妻にすれば!…… あ、リーナちゃん嘘ですじゃ爺のボケじゃてな!
危なかったわい。
─────ワール氏の日記に従い石扉を開く事になった。
これで開けばヒロ君の持つワール氏の日記は本物である可能性がさらに増す。
もちろん、すぐさまに石扉は反応し開きだす。
ほほぅ…… ため息を出す。
開かれていく石扉の中を早く見たいと爪先立ちになる。足が少し攣(つ)ってしもうた…… あいたたた……
ヒュン!
不意に鳴る風を切る音に目を向けるとリーナちゃんが石扉の方へと走る。早い。
宿痾(しゅくあ)に悩む友人とも呼べる正教徒騎士団の隊長のピーク時に見たスピードより早いやもしれんん。
トロールがおる!
いかん!ワシらが死ぬのは仕方ないがまだ子供を死なすわけには!
しかし焦るワシらが見たのは、杖を左右に振り払い一撃に1匹のトロールを屠(ほふ)っていく。
なんと力強い!
杖に込める魔力に神聖な物を感じる…… なんなのじゃこの親子は……
声を失うワシらの横を、次は父親とヒロ君が走る……
ドパン!ドパン!
ヒロ君が強烈な魔法を使い、およそ普通の弓矢ではない射程距離にいるトロールを父親が射抜く。
ワシら役立たずじゃん!
…… しかし驚いた。
ベヒモスがおるとは…… ヒロ君の卒爾(そつじ)な行動の連続で疲れたよワシは……
ベヒモスとの対話の後、その巨躯の近くでテントわや張り休む事になったのじゃが……
「む…… 人の声?」
テント内の爺らは寝ており、起きている爺はワシ1人じゃった。
ワシはテントの入り口をちょいと開くとヒロ君とベヒモスが話している所じゃった。
周りは静まり、水の流れる音さえ大きく聞こえるような闇の中、焚き火に照らされた少年と神の怪物の姿に声をかける意味を失った。
美しい…… まるで絵画のようじゃ……
『ヒロちゃん…… あなたから私の創造主である神様の匂いがするわ』
「わかるかい?ベヒさん」
ヒロ君はベヒモスをベヒさんと呼んでおるようじゃが…… しかし神とな……
ワシは首にかけた女神様のペンダントを一度、優しく握り1人と1匹の声に全神経をかたむけた。
語られる内容はワシの心をおかしくさせ、自分の迂愚(うぐ)さを思い知る内容であったのじゃ。
□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
夜の始まりに戻る─────……
俺は深夜、皆んなが寝静まる時間に野営の見張りを担当すると
「む、ヒロキが見張りをやりたいとは」
「まあ、いつもはテキトーだからね。今日はホラベヒさんと話をしたいから」
「む、そうであるか」
何(なん)や彼(かん)やで俺はベヒさんと息が合ってさっきまで雑談をしていたのだ。
早く寝付き次の野営当番に備えるのも騎士団で慣れたそうだ。ちなみに
まぁまぁ
ふぃーっ
息を吐きながらテントを出るとベヒさんと目が合う。
『ヒロちゃんは寝ないの?』
はい、ベヒさんからはヒロちゃんと呼ばれています。
「うん、ちょっとね」
耳を澄ませて爺ちゃん達のテントを見る…… 寝てるっぽいな。
『私がいるから魔物なんて追い払うわよ?』
「まぁ、俺がベヒさんと話したかったから良いかなって」
「ふーん」
水辺で冷えるので、肉入りのスープをストレージから出して焚き火で温める。この店のスープも美味そうだ。
『ヒロちゃん、ひとつ聞いていい?』
「うん良いよ」
『ヒロちゃん…… あなたから私の創造主である神様の匂いがするわ』
「わかるかい?ベヒさん」
ベヒさんは地球の神に作られたのだから、同じように神に作られた存在の俺を見て何か分からない繋がりを感じたそうだ。
それからは地球の事や神様のことなど、色々と話し合った。
「ベヒさん、もうちょいで俺は寝に行く。どうだろう?彼方の地に帰りたくない?」
『ええ、ええ、ヒロちゃん。私も帰れるのなら帰りたいわぁ』
「了解いけるか分からないけどやってみる」
俺はストレージ内からスクロールをバサバサと出す。俺たち家族の定番になっている困った時のスクロール様だ。
取り出したのは召喚魔法のスクロール。
[召喚魔法のスクロール]
召喚魔法を使えるようになる。
熟練度によって1.召喚に干渉する能力が変わる。
2.召喚できる者の大きさが変わるり
3.熟練度によって召喚場所を自由に選べる
『わぁ、ヒロちゃんスクロールいっぱいじゃない』
「うん、召喚魔法を覚えたらベヒさんを還せるかなぁーって」
慣れた手つきでスクロールを重ねて、習得していく。あ、やっぱりスクロールの吸収は気持ちええなぁ。
シュンシュンシュン!という音が静かな遺跡に響き、取得する光が幻想的に闇を照らす。
ベヒさんの期待する目がより鮮明に映る。いや、良い人?良い怪物なのに顔が怖いなぁ…… 神様は何を考えてベヒさんを作ったんだろう?
全てのスクロールを習得して召喚魔法を頭に思い描く。
召喚魔法 [極]
よし!極まった!
「ベヒさん、試してみていい?」
『ええ、大丈夫よ!ヒロちゃんお願いできる?』
「うん、召喚魔法の熟練度が[極]まで上がったから対象、今で言うならベヒさんが思い描いた場所に飛ばせるみたい。俺を信頼してくれる?」
召喚魔法は熟練度が低いと魔物や人を呼び出し、呼び出した
熟練度が上がると対象が拒否しても強制的に召喚出来る様になり、さらに熟練度を上げると他者の行った召喚魔法に割り込む事が出来るようになる。
ベヒさんに触れて召喚魔法を発動して、遥か昔に召喚を使った残滓を確認すると…… ベヒさんを召喚した馬鹿な魔術師が使った召喚術に割り込めそうだ。
「ベヒさんパスが繋がったよ。帰れるよ」
『ヒロちゃん!ホント?』
「しっ!みんな起きちゃうからね?」
『ごめんなさいヒロちゃん。でもやっと帰れるのね…… 』
よし、早よしないとな老人は起きるの早かったりするし、とっとと済まそう公太郎。
召喚魔法を使うのに魔力を高めていく。
くっ…… やっぱりデカイから魔力量がいるな。
『ヒロちゃん』
「ん?」
『もし困った事があったら私を召喚してねり神様と女神様の恩恵があるヒロちゃんなら喜んで召喚されるからね』
「…… ああ、ありがとう」
ベヒさんがニッコリ笑う…… 笑う?笑ってるよね?顔がホント怖い。損してる良い人なのに!
グ───────────…… !!!
魔力量がカラになるぐらいに力を入れるとベヒさんを送る準備ができた!
「ベヒさん!帰りたい場所を思い浮かべて!」
『はい!いいわよ』
「うん、バイバイ!ベヒさん」
『バイバイ!またね!必ず呼ぶのよ!?』
ベヒさんが光に包まれると粒子に変わり、消える。
多分、成功した……
俺は魔力が切れてしまいそのまま倒れる。
あ、
俺はベヒさんという仲間を得たのだった───。
────────────────────
玲瓏たる声
めっちゃ綺麗な声
爛熟期
すげー熟していい感じの時
鼻元事案
考えが浅はかでダメっすねー。
僧庵
小ちゃいボロめの家
奸策
わるだくみ
宿痾
持病や病のこと
卒爾
いきなりな事、とつぜん馬鹿な事
迂愚
馬鹿だねー愚かだねー。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます