第14話
貴族の老婦人は重い話をいきなり始めた。
なんだよ寝苦しくなる話をぶっこんで来ないで下さい。
「えっと…… マジですか?」
話が本当か知るためにツイと御者さんの顔を見ると静かに目礼される。
マジかぁ……───── 話を要約するとこうだ。
老婦人の息子さんは経験を得るために一年間を区切りに冒険者をしていたらしい。
まぁ、この世界だ【強さ】は地球で言う所の【銃器武装】に似た意味合いがある。
経験の取得と強さを求める為と息子さんに説得されて仕方なく冒険者になる事を許したそうだ。
気のいい息子さんだったんだろう。
冒険者ギルドで仲間と過ごすのに名誉と尊厳は必要と思わず自分自身が貴族の令息とは名乗らなかった。
それは後々の聞き込みでハッキリしている。
語られる息子さんの話の中に惜しむ声が殆(ほとんど)だった。
「貴族としてはいい奴だった」ではなく息子本人の名前で憐憫(れんびん)の情をあらわしていたからだ。
いい奴…… しかしそれが仇となる。ある依頼(クエスト)中に罠に嵌められた。いい奴とは時に荒くれ者からしたら目障(めざわ)りに映るからだ。
息子さんは大型の鳥の魔物との戦闘において、即席に組んだパーティーに戦いやすいという下らない計(はか)らいで魔物の生き餌(え)にされた。
「それで…… 息子さんを
「はい、奥様はそれはそれは…… 」
涙ぐみ声を詰まらせる御者…… というか執事さんらしい。
バラバラになった息子さんを老婦人は何年も何年も大陸中で探しまわっているそうだ。
もちろん、この世界には捜査網や警察、
冒険者ギルドも探してくれるが、それも金がかかる。
「…… 我が家はもう火の車なのです」
貴族としての税収や年金を湯水のように使って息子を探す…… これも愛情だろう。
貴族である老婦人のドレスの袖(そで)が解(ほつ)れていても。
御者を雇う金が無いので執事に御者をさせても。
実は豪華な馬車は装飾の金銀が剥がされて見た目しか価値が無いものになっていようとも。
息子を探すのだ。と決意を揺るがさないその目に感嘆の声をあげるのを止めることはできなかった。
「…… すみません。俺は他国ですが貴族に対してあまり良い思い出が無かったので…… えっと、昼に逃げてしまって。それで依頼というのはどうすれば良いですかね?」
「探し物…… の名人と言われているお二人に息子を探して欲しい…… と言いたいところですが、それは無理な話です。マジックバックを譲って下さらないかしら?」
老婦人は手の皺に眼を落として恥ずかしそうに声を弱める。
孫のような年齢の平民に貴族なのに物を強請(ねだ)る、できれば安く…… という気持ちがあるのだろう。
いや、この御婦人は単にマジックバックを売って欲しいという話をする事で俺たちに迷惑がかかるのを恥じているのかもしれない。
そのマジックバックは何に使うか?
増え過ぎた遺体や遺骨を納める為に使いたいのだと言う。
流石に誰の骨か分からないのに貴族墓地に入れられないんだそうだ。
ストレージはスキルだ。扱えない人間は持てぬ手段だけどマジックバックは誰でも使える。
今までも何個かマジックバックを手に入れたが、それでも簡単に手に入らない物なんだそうだ…… えっとストレージに山になるほどアイテムバックの在庫があります。
うん、しかし盗賊の貯めていた財宝とかバンバン運んでいたから容量が大きなマジックバック持っているのバレてるね。冒険者ギルドが流したかな?
実際は神くれたストレージに入れているんだけどもね!
「我々が息子さんは探さなくて…… いいのですか?」
グッと息を止める老婦人に代わり執事が声を出す。
「お坊ちゃまは…… もう年数的に遺骸は骨となっています。奥様は鳥の魔物の巣を各地で探索して誰彼か分からない全て遺骨を集めていらっしゃるのです」
一種の諦めがあるんだろうね。
それでも…… その遺体や遺骨のどれかが、自分の子供かもしれないから……
老婦人の涙はそれを語るのに十分だった。
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「あばばぁぁ…… 可哀想だった」
もらい泣きですよ、ええ。
「うむ、うむ、…… 」
老婦人の依頼はもちろん受けた。
「マジックバックを用意するので」と一週間後にまた訪れて欲しいと確約をして。
いきなりマジックバックを出したら、流石にストレージの事を怪しまれるだろうからね。
老婦人が部屋を出ると俺はポロポロと涙が出た。
地球にいる親族は俺を探しているんだろうか?
そんな一時的な懐郷病(ホームシック)になってしまったのだ。
「ヒロキ少年」
スッとロックマンが椅子に座る俺に向き合う。
「なんだい?少年付きで呼ばれるの久しぶりなんだけど」
「うむ、私の話も聞いて欲しい」
はい!こーれーはーたぶん重い話の2連ちゃんです!これが小説なら読者の事を考えてるのかっていう重い話の重複です!
「悲しい話はお腹いっぱいなんですケド…… 」
「うむ、しかし今ではないと言えない気がするのだ。ヒロキ少年とこれからも過ごすのであれば私は話しておくべきだと考える」
断れないじゃん!
──────── 私、ロックマンは寒村の農家に産まれた。
父は爪が土混じりになり洗っても土が取れないぐらいに働き、母は体が弱くても必死に私と妹を育ててくれた。
ある日の事。
よくあるのだ。魔物が私の村を襲った。
分かるだろう?父は戦いに出て、母は私たち兄妹(けいまい)を逃がそうとして命果てた。
物語にもならないような、よくある話なのだ。
私は…… 幸いな事に体が父に似て丈夫だった。
すぐに引き取りする隣町の守衛の養子に収まった。
妹は…… リリアノールは見た目と器量が良かった…… 【とある貴族】の侍女というか小間使いに召し立てられた。
その頃の私はただの平民の子供。
どこの貴族にリリアノールが引き取られたか教えてもらえなかった。
「貴族の名前を聞く事は不敬である」
リリアノールを迎えに来た貴族の下働きの言葉に『そういうものか』と納得してしまった。
平民を身分で軽んじる貴族、今では猛烈に反対した相手だろう。
私は…… 妹であるリリアノールをずっと探しているのだ。
貴族になったのも、リリアノールを身請けした貴族の情報を得易いからだし、領地を持たないのも捜査に身軽で居られるからだ。
私はリリアノールを見つけられないでいるのだ──……
「じゃあ、ロックマンさんは妹さんを探すのに…… ?」
「うむ、悪いと思っていたが冒険者の依頼料を全てギルドの捜査依頼に使わせてもらっている。どこかにいる妹を…… 」
いや、それはいいんだけど…… 金なんていっぱいあるし、なんなら捜査金を俺のストレージから追加してもいいし……
いいんだけど……
いいんだけども……
気になって調べてしまったんだよ。
もしかして、手がかりがあるかもね?って軽い気持ちで……
いたんだよ。
ストレージ
[ロックマンの妹・リリアノールの遺体 1 体]
これは…… 伝えるべきなのか?
「ヒロキ少年?」
「えっと…… 」
「何か、見つけたのかね?」
「えっと…… えっと…… 」
もう、語彙がえぐい。言葉が出ない。
ストレージ内のリリアノールさんの項目をソートして情報を精査して心を落ち着か…… ないわ。
思わず、俺の顔が歪んでしまう。
「えっと…… ごめんなさい」
「ヒロキ少年?」
「言い訳させて欲しい。俺には友人がこれからも闇の中を彷徨(さまよ)いながら生きるなんて耐えられない。もし、俺が嫌になったら別れてくれてもいい…… これはクソみたいな自己満足だ」
何を言い出すのか理解不能になりゴリっと首を傾けるロックマンさんに苦笑する。
あぁ、妹さんが生きているのを信じているんだな。ピンとこないんだな。
ホテルは幸い、スイートルームだから部屋数が幾(いく)つかある。
家具が少ない部屋に移動してストレージから魔物の毛皮をふんだんに活かした絨毯(じゅうたん)を敷く。
「ヒロキ少年?何でこんな豪華な絨毯を?」
俺について来たロックマンさんは俺の奇行にまた首を傾げる。
「えっと…… 大切なものなので…… ふかふかな物の上に出します」
「む、出します?」
俺はゆっくりと広い絨毯に座り、ストレージからリリアノールさんの遺体…… いや年数が経過している遺骨を取り出した。
「む、この骸骨は…… この…… !」
遺骨はまだ幼い子供が仰向けに寝るように現れた。
服は無惨に破れ、棺もなく粗雑に埋められたんだろう土が眼窩(がんか)に残る遺骨を見てロックマンさんは顔を青ざめ絨毯に膝をついた。
「こ…… れは…… あの日にリリアノールを送り出した時に着せた母のおかあさんの…… 上着…… 」
ロックマンさんはイヤイヤと首を横に振り涙声に変わっていく。
「ヒロキ少年…… ?」
「ああ、本当にリリアノールさんだよ。スクロールで[鑑定]覚えただろ?」
ハッとロックマンさんは気がついたのか、リリアノールさんを凝視する。鑑定を使っているんだろう。
俺もリリアノールさんの遺骨を鑑定して…… ロックマンさんに飛びかかった。
「ダメだ!ロックマンさん!」
「ひ!ヒロキ少年!ダメだ!行かせてくれ!」
ロックマンさんの腰を抱きしめて動きを抑えようとする…… てかダメだ!レベル上がっても止められねぇ!
青筋をバッキバキに立て興奮で赤い顔になっているロックマンさんに叫ぶ。
「今はリリアノールさんを弔わないと!」
俺の声にロックマンさんは顔を天に向けて泣き出した。
…… 鑑定
[リリアノールの遺体]
享年4歳。
王国貴族のサイモンの手により強姦・拷問・殺害される。
この貴族をロックマンさんは殺しに行こうとしたんだろう。止めなきゃロックマンさんが兵団に殺されているか犯罪者になっていたな。
再度、リリアノールさんの遺体を手を合わせて拝見すると、ワンピースを着ていたんだろうけど足の付け根まで破かれその周りに血が付着している。
幼い子に何てことしやがる、理解したくないが本当に強姦をして殺したんだろう。
「リリアノール…… 痛かっただろう?」
俺が見ていると涙、滂沱(ぼうだ)としたロックマンさんが近づき頭蓋骨を抱き寄せる。
「お兄ちゃんが…… 守ってあげれなくてごめんなさい…… この服…… あの日のままだね。連れて行かれてすぐに…… 辛かっただろう」
そう、ロックマンさんの話の通りならクソ貴族はリリアノールさんを召し抱えた当日に犯行をおこなったんだろう。
「あぁ、おかあさんの服にお兄ちゃんが別れの時に汚したシミがあるね…… 笑って許してくれた…… リリアうぐっ…… うぅぅぅぅ…… 」
ロックマンさんはそのまま、泣き崩れてしまった。
「私が!私だけが幸せだった!なんてダメな兄なんだろうか!」
蹲(うずくま)るロックマンさんの顔は見えない。
俺は友人の悲しみと苦しみをどうしたらいいのか分からず、無言で立ちすくむしか出来なかった。
──────…… 魂のありか…… は分からない。
神に会ったんだから天国はあるし、女神様が連れて行ってくれるだろうと願いながら、俺は前(・)の異世界のものの遺骨を出した…… この世にもう一体あるリリアノールさんも弔ってあげたいと棒立ちのまま[極]の[鑑定]でリリアノールさんの情報を得ていった。
□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
「ヒロキ少年」
「…… 親父、落ち着いたかい?」
翌朝、ホテルのラウンジにあるカフェコーナーで一夜を明かした俺の元へ涙で目を腫らした
「…… まだ親父と呼んで良かったか?」
「うむ、当たり前である。私も家族はヒロキしかいないのだからな。逆に名前呼びされたら…… 辛い」
「ん…… 分かった」
まだ、友人でいてくれる
「リリアノールさんは?」
「うむ、寒いといけないからベッドに寝かせている」
「うん、棺桶を買いに行くかい?」
「…… 頼む。」
ストレージから出した物より兄として自分が選んだ方がいいだろうとした提案に
「休ませてやらないと…… だな」
「うむ、、」
胃に物を受け付けないのか
墓は…… 母と父と一緒に眠らせたかったみたいだけど魔物の腹の中で消化されたのかストレージ内にも無かった。
仕方なく街の高台にある墓地に個人として埋葬する事にした。
一般人なら数世代は暮らせるぐらいの金を墓守に払い永代供養を墓守に願い綺麗に花も植えるのを含めた管理の契約をした。
日が暮れるまで祈り墓石に
空は夜空と暮れのグラデーションがかかり紫色。
そこに決意をこめた。
怒りを飲み込んだ顔をする
その目でわかる。
『今度は復讐を止めるなよ』と考えている事が。
「…… あー!分かってるよバカ親父!」
「む、ヒロキにバカ呼ばわりされるとは」
ガシガシと頭を掻(か)いて
「…… なぁ、親父、復讐の方法を任(まか)せてくれないか?ただ殺しに行ってお兄ちゃんが返り討ちか、投獄されたらリリアノールさんが可哀想だろ?」
「む、であるが」
…… 用意してやるよ!復讐の方法をな!
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