第9話


 「えっとロックマン副長官筋肉騎士さん」

 「なんだい?ヒロキ少年?」

 「なんで俺は王都に行かないといけないんですか? 」


 …… おはようございます、俺はなぜか馬車の中にいます。

 昨夜のリンドーンの騎士団支部でのどんちゃん騒ぎから明けた朝、俺は通勤電車で座り寝をしていたような状態で目を覚ました。


 あれ?今考えたら俺ってよく考えたら口臭くない?大丈夫?


 とにかく、木と鉄を組み合わせたような箱馬車の中にはロックマン副長官筋肉騎士とその助手のようなメガネ男子と俺の組み合わせで乗っている。

 筋肉ダルマのせいで狭く感じる馬車の中ではメガネ男子が羽ペンを走らせる音がやけに大きく聞こえる。


 え?無視なの?とロックマン副長官筋肉騎士を恐々と見るとため息をついて筋肉は口を開いた。


 「ヒロキ少年、キミは色々とおかしな所が多すぎる」

 「…… なんかしましたっけ? 」

 

 ロックマン副長官筋肉騎士の言はこうだ。


 ソバの町のギルド受付にエリクシール剤を使ったのはキミじゃないか?

 隠密じゃないにしろ影回避自体がかなりレアなスキルだ。

 所持する酒の種類がおかしい。高貴な方々でもなかなか飲めないような物をポンポンと出すなんて……


 「えっとソバの町のは人違いですし、影回避は何故か覚えていました。酒は俺は商人なので…… 」


 「商人が簡単に手に入れられる酒ではないし、体を悪くしている騎士にチャンポンとかいいながら酒とハイポーションを混ぜて提供していたね?ハイポーションは売り物ではない。国が管理している戦略物資なんだよ」

 「はははは…… ハ、ハ、ハ、ハイポーションちゃうしミドルポーションですしおすし」

 「おすし?…… いやミドルポーションでも…… まぁいい、一番の問題はヒロキ少年。キミの装備なんだよ」


 うぶぅ…… と思ったことと違う事をツッコまれ過ぎて吐きそうになりながら次の言葉を待つ。

 「ヒロキ少年、キミのそのナイフ…… ウチの国宝なんだが、なぜ持っているんだい?」


 あぁぁアウト——————— あー、昨夜の飲み会で肴として出したオリーブを切る時に使っちゃったよ国宝ナイフ…… そうかーストレージの中のソート『レアリティ順』で微妙な位置にあったナイフが国宝かぁ……


 「勘違いっすよぉ…… たぶん、国宝と同じ頃に作られたナイフっすよ?」

 「いや、確かそのナイフは先先代の国王様に[鍛治王]というスキルが顕現して、その手で作ったナイフ…… 2つと無い…… はず?」


 しかし、はて?とロックマン副長官筋肉騎士は考える。

 『いやしかし国宝は毎日、王国の財務担当者により厳しく盗難がされていないかチェックされているはず。盗まれたのなら大騒ぎになっているハズだが…… 』

 

 「いえ————————— …… うっぷ」

 何も言えねぇ…… 俺は脳裏にチラチラと『これ死罪ありえるんじゃね?』と浮かび上がるのを抑えて吐き気を止めるように、ただただ下を向いて馬車の旅を満喫した。


 メガネ男子がコチラを見ながら筆記を繰り返す。

 罪人になる可能性がある俺の様子を書き留めているんだろう。


 シュッシュッシュ——————ッッ……!!


 なんかキーボードのエンターキーをターーン!てする人はどの世界にもいるんだなぁ…… という意味の分からない事ばかり記憶に残った。



 しばらく胃に悪い馬車はすすむよ進むどこまでも。野営含む夜明けを3回眺めたその日の昼前に馬車は王都に普通に到着

 普通に俺は王城門内に入城して  

 普通に俺は王城隣にある建物内の牢屋にINNした。


 チェックイ───ン!とかテンションアゲられずにしずしずグッタリと歩き牢内の簡易の椅子に腰をかけた。

 「ふぁぁぁぁぁぁぁ──────!!!なんで—!!!??」

 あ、すみません看守さん。でも叫ばずにおれますか!?


 リンドーンでやっと普通の生活したのに…… 女魔法使いリーサさんみたいな美人とお友達にもなれたのにー!

 激動!そう俺の中の激動の王国暦1350年!



 もう!ふて寝しちゃう…… ストレージから布団を出して己の中の綺麗な所作で優雅に床に敷いて横になる。

 座るのも辛い!心がしんどい! 何でこんなに逮捕って精神的にくるのかな!?再犯・再収監の人って心臓どーなってんの!?


 ふぐふぐぅぅ…… と布団の中で5時間ぐらい?いやもっと短いかな? 泣いていたらカツンカツンという足音とゴツンゴツンという2つの足音が俺の牢屋の前で止まる。

 「ヒロキ少年…… 出たまえ」

 


 ふぁぁぁ…… ロックマン副長官筋肉騎士の声だぁ…… 死罪なの?ねぇ死罪?早くない?… と震えながら寝たフリを続ける

 「ヒロキ少年、釈放…… というか事情を聞きたい」


 「ロックマン副長官筋肉騎士────!」

 もう感動の名作的な?涙なしには見られない的な感じで布団を跳ね除け俺は立ち上がる…… だれ?この美人さん?

 

 ロックマン副長官筋肉騎士の隣には金髪のモデル体型の美人さんが立っていた。ハリウッドスター?

 え?

 「こちらはモノホシ公爵夫人だ。ヒロキ少年に提案があるというので御足労いただいた」


 公爵夫人?はぁ、人妻っすか? ってか身分制度には詳しくないからアレだけど公爵ってばメッチャ偉い人だよね?


 ハトのように公爵夫人に頭をクキクキ下げながら牢屋を出ると公爵夫人は冷たい目を俺に向けながらこうつぶやいた。


 「こんな子供がホントにエリクシール剤を持っているのかしら? 」

 


□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


 「えっと…… 無罪?」

 「うむ…… 条件付きではあるがね」

 ロックマン副長官筋肉騎士は俺が入っていた牢屋や拷問施設がある建物の隣にある迎賓施設の椅子に座ると、パキリと割れそうな音を鳴らせて木製の背もたれに凭(もた)れ掛(か)かり息を吐く。重量感がすごい。前から見たら椅子が隠れてしまうな。



 「条件付き…… ですか? 」

 俺は先程から変わらずイライラとした風の公爵夫人をチラ見して、間が持たないなぁと部屋を見回す。

 牢獄の横に迎賓って…… と思ったけど王城の敷地にあるんだから目当て・・・の囚人に会いたい貴賓もいるんだろね…… と思って納得した。

 

 煌びやかな装飾品と共に宗教画が飾っているけど地球のとはたいして違わない印象がある。


 あ、ちなみに自分は石造の床に正座してます。


 ロックマン副長官筋肉騎士とモノホシ公爵夫人は小声で何かをブツブツと相談した後、こちらに目を向けた。

 「どうやらヒロキ少年は自分の素性を隠したい様子。そして公爵夫人もエリクシール剤を欲する事を流布されたくない」


 厳しい2つの目に俺はコクリとうなずいて答える。

 いえ、うなずいとけ的な雰囲気なので。


 「…… (あれ?無言?俺が何か申し開きしないといけないのかな?)ゴホン…… 自分はとある国から渡航した異邦人です。文化や習慣も分からず、また後ろ盾や人との繋がりが無い。素性を隠す理由はこんな単純な理由、ですが。」


 あまりコテコテな理由付けはどうかと思うし、正確ではないが正直に答えるべきだと自分の立場を明かすとモノホシ公爵夫人はコツリ…… と机に何かを置く。いやいや自分は正座なので机に置かれたら見えないんすけど?



 「いいのですか?公爵夫人?」

 「ええ、もし本当にエリクシール剤があるなら利害は一致しそうですし」


 ロックマン副長官筋肉騎士は机に置かれた何かを摘んで床に正座する俺の所に靴をピギュッピギュッと鳴らし近づきそれを運び渡した…… 体重あるから靴が石床に潰されて変な音になっとるな。



 しかし…… 渡されたコレはなんだろ?五百円玉ぐらいのプレートなんだけども?おっし鑑定すっか!


 『国王の翼賛者モノホシ公爵の加護の印——— これがあれば不当な抑留をこの国では受けない』

 ほぉ、[鑑定]さんの説明が正しいならこれは……


 「えっと、冤罪!!ではありますが今し方(がた)まで囚人だった自分に下賜するには過分なものだと思うのですが…… ? 」

 後援者になるって事だろ?

 日本なら国会議員のかなり偉いさんが刑務所から釈放された怪しい人間の横に立って「このひとはねーダイジョウブよホントになんか…… そう、ダイジョーブ」とか言うのと同じで大丈夫じゃない好意に怖くなる。

 …… うん、ストレージにもモノホシ公爵の加護の印があるね…… 150個もあるね。うんうん。無くしても安心。

 

 しかしこの世界での身分の安泰は渡に船だしエリクシール剤が欲しいっぽいし、欲しいという話されたらエリクシール剤を速攻で出しとこう。そうしよう!


 俺がウダウダと考えているとロックマン副長官筋肉騎士は膝を折り俺に目線を合わせる。

 

 「うむ、あまり詳しくは話せないのだが…… つい先日に自領内の戦闘で四肢を欠損された御方がいてな…… あまりにも酷い状態で命を失うよりは。と考え、その場で止血されてな…… 回復魔法ではどうしようもない状態になってしまったのだよ…… うん、ボカして話すのが難しいな」

 脳筋さんのロックマン副長官筋肉騎士は全然ボカす気がないのか治療対象の状態をベラベラと話す。この人が副長官で大丈夫なのか?


 えっと、多分なんだけど公爵様本人が…… という事だろうね?男性は成人した人、自領内は領地がある身分、公爵夫人が来るという事は公爵本人が来れなかった…… だよね?


 俺は言葉を選ぶのを悩むロックマン副長官筋肉騎士に手を挙げて発言の了承をえる。

 「えっと、これほどまでの対応はいらないです(もっと自由に生きたい)。だから釈放と同時に俺を城下町にでも解放してくれませんか? 」


 物欲はストレージに全てあるので、煩わしい関わりより自由が欲しいのです。もし後ろ盾とかもらえるなら下の方の貴族か商人で十分ですほんとほんと。


 「コレ・・もなんなら提出して所持権を放棄します」

 腰に装備した国宝のナイフを外してツイと正座している前の床に置く。


 「…… それに」

 ズラリとエリクシール剤を5本、正座する前に並べて驚愕か瞠目(どうもく)する2人に軽くイケメンスマイルを見せながら両手を広げて言葉を続ける。


 「全部持って行って下さって結構ですよ」

 これで勝てる…… 俺はこれで王城敷地内(ここ)から解放されるであろう喜びに心の中で盆踊りを踊った。パタリロのエンディングのやつだ。


 俺はな! 初めて営業をかけた店の[スタッフオンリー]と書かれたドアをくぐるのも少し緊張するような小物なんだぞ! ホント城とかやめてください!逃がして下さい!

 

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